ネコぶんこ


2011年02月20日 気の弱いシェフには、残り物のスパゲッティと古いゼリーを混ぜるのはやりすぎに思えるかもしれない。 [長年日記]

§ [DnD][4e] 『D&D Gamma World Roleplaying Game

2012年に起きた大型ハドロン衝突型加速器実験の事故により、1947年のロズウェル事件が起こらずグレイの技術がもたらされた世界、14世紀に黒死病禍が起こらず旧大陸が荒廃しなかった世界、恐竜が滅びなかった世界、ニコラ・テスラがロボット軍団によって世界征服を果たした世界……など、たくさんの可能世界がひとつの現実へと収束してから150年後の2162年。ガンマ・テラ(Gamma Terra)と呼ばれるようになった地球は核で荒廃した砂漠や変異した原生林で覆われた荒野になり、人類も例外ではなく肉体と精神が変異していた。

自動車ほどの大きさをした甲虫がうろつきナポレオン時代風に超進化したアナグマの共同体があるような世界で、君たちは生き残るために探検し、戦わなければならない。

というのが、DnD第4版のルールを使った新作ゲームD&D Gamma World Roleplaying Gameの世界ですぅ。Falloutマッドマックス北斗の拳メタルマックスなどでおなじみの、災厄で荒廃した地球が舞台のポストアポカリプスもので、肉体が変異したり超能力に覚醒したPCが生きるために戦うというわかりやすいテーマになっているですぅ。

システム面も200ページ未満のルールブックにPC作成からGMガイドにモンスタのデータ、そして付属シナリオまで詰め込んだ充実ぶりで、このセットひとつで遊べるようにした工夫が随所に見られる良品ですぅ。

Gamma Worldでもっとも特徴的なシステムは、PC自身も制御できない変異能力を表現するアルファ変異(Alpha Mutation)カードで、7枚以上のカードで構築されたデッキから遭遇毎にカードを引き、その遭遇で準備されているアルファ・パワーを決定する(遭遇が終わったら捨て札となり、大休憩で山札を再構築する)というものですぅ。

デッキはプレイヤがPCに持たせたい能力で固めたものを用意することもできるので、PCが持っていても嬉しくないカードを排除したうえで、準備した不自由さを楽しみにするという『ドミニオン』などデッキ構築ゲームに似た楽しみが加わった印象を受けましたぁ。

アルファ・パワーは暴走(Overcharge)させることもでき、d20で10以上を出すと通常の効果に加えてメリット、9以下だとデメリットを受けるというシステムも、ランダム性を重視しながらどこかでプレイヤがコントロールできるようにしているというコンセプトを感じられたですぅ。

そしてアルファ変異と対になっているのが、エリア51に技術をもたらしたグレイ型宇宙人の故郷エリア52(Area 52)、複数の世界線で生まれ並行世界に進出していた帝国イシュタル(Ishtar)、同じく複数の世界線で誕生した機械知能と神経改造技術ジィ(Xi)などからなる超技術の所産、オメガ技術(Omega Tech)カードですぅ。

こちらはDnDでいう魔法のアイテムにあたるもので、プレイヤがデッキを作っておけばGMはプレイ中にPCが何か見つけた時それを引かせることもできるという、欲しいものリストを少し発展させたような使い方が示唆されていたですぅ。

さきにも書いたように書式がDnDの魔法のアイテムとほぼ同じなので互換しやすい部分だけど、遭遇毎にマイナー・アクションで追加の標準アクションを得て遭遇終了時まで移動速度に+1するフラッシュ・ニューロジャック(Flash Newrojack)など、壊れた性能のものも多いので当然ながら注意が必要ですぅ。

他のプレイヤと戦うのではなく全員で楽しい物語を作ることが大原則であるという説明で始まるGM向けの章はかなり充実した内容で、ガンマ・テラの演出に便利な要素の箇条書き、廃墟の雰囲気を出すためのd100で決めるガラクタ表などもあるですぅ。

戦闘遭遇の作り方にしても、屋外だと遭遇開始で敵との距離は10〜20マス、屋内では5マスほどで、戦闘中キャラクタが立ち回れる空間があるとよいなどの指針や、敵のイニシアチブはグループで管理すると便利などの小技が短くまとめられ、特殊な地形の例なんかもいくつか挙げられていますぅ。

有無を言わさずPCを巻き込んで色々な判定で中盤を繋ぎ、クライマックスへ持っていくというシナリオの作り方や、PCが脇道へ逸れないようにするという意図の説明から個別のモチベーションを持たせてひとつのシナリオに繋げるという小技まで開示されるクエストの出し方などは、少ない紙幅で要点を伝えようという意識があって好いものだと思ったですぅ。

DnDとの差異や互換性中心の説明を続けると、レベル上限は10で、PCに種族とクラス、特技は無くなっているですぅ。

種族やクラスの代わりにあるのが、共感能力者のエンパス(Empath)や重力使いのグラヴィティ・コントローラー(Gravity Controller)といった超能力の系統から、虫が変異したコックローチ(Cockroach)や猫科のフェリノイド(Felinoid)というものまである20とひとつ(普通の“人間”であるエンジニアード・ヒューマン(Engineered Human))の起源(Origin)で、この中からふたつを選んでさまざまなボーナスやパワーを決定するですぅ。

装備は個性的なガジェットをオメガ技術で表現しているためか細かくはなく、鎧はLight、Heavy、Shield。武器はLight/Heavy Melee One-handed/Two-handed Weapon、Light/Heavy Ranged One-handed/Two-handed Gun/Weaponという大雑把な区別で、細かいことはプレイヤが決めるようになってるですぅ。銃はLight One-handed gunでも習熟ボーナスにあたるWeapon Accuracyが+4、ダメージ1d8、射程10マスというなかなかに頼れる相棒だけど、貨幣の概念がないガンマ・テラでは弾薬は報酬や物々交換、廃墟からの発掘でまかなわないといけないので、それなりに大変ではあるですぅ。

アンドロイドやロボットからミュータントまでいる45種類のモンスタは、書式がDnDと同じなので一番簡単に流用できるところだと思うですぅ。

こうしてざっと眺めてみると、同じシステムを使いながらDnDで面倒だったPC作成での種族やクラス、パワーの選択を完全ランダムにするという豪快な変更は、プレイヤが介入できる乱数のアルファ変異というシステムを際立たせるための要素と解釈でき、基本は同じシステムでもDnDとは異なるプレイ感覚を提供するための工夫が見えてくるですぅ。

WotCが出している他のゲームと同じくらい平易な英文で分量も少なめなので、手軽な直球のポストアポカリプスものとして楽しむもよし、DnDと混ぜるぜ危険をするもよしで、なかなかお得なゲームになっていると思うですぅ。

すでに人工知能のAIや神話存在のミシック(Mythic)、時間旅行者のテンポラル(Temporal)といった追加起源20種や、利益を得る代償として他のPCにデメリットを起こすカードをPCに与える秘密結社(Cryptic Alliances)のルール、そしてキャンペーンの舞台として東ダァコォタァ地方とファーゴの街、シナリオが収録されたFamine in Far-Go。起源、秘密結社に続くPCを表現するリソースとして特定レベルで特技を得られる職業(Vocation)が加わり、冒険の舞台が月面にまで広がるLegion of GoldのふたつがExpansion Kitとして発売されていて、商品展開のほうはこれでひと段落のようですぅ。

手前味噌ながら、翻訳用のGamma World Wikiを立てているので、利用していただければ幸いですぅ。ユーザ名は108ページの見出し、パスワードは109ページの見出しを両方すべて小文字ですぅ。