ネコぶんこ


2013年11月18日 [長年日記]

§ [DnD][4e][LnL] 『優先順位のこと(A Matter of Priorities)』

マイク・ミアルス

D&D Nextのデザインを進めていくうえでは、RPGをデザインするうえでの基礎原則のいくつかを振り返ってみることにも価値があった。

もちろん、今の私たちはデザインの仕上げとそれらを形にしていくことでてんやわんやだ。プレイテストの最終局面で得られたものは好意的なものが実に多かった。それらを磨き上げる工程はまだだが、私たちは高い水準で承認されたと感じている。私を信じてほしいが、君たちはこれらの調査で辛口な批評家だった。私たちが一番最初に出したものからどのような道をたどってきたのか振り返るのもいいだろう。プレイテスターのみんなが常に高い水準で参加し続けてくれたおかげで、私たちは大またで前へ進むことができた。

さて、新たなデザインを君に見せることはなくても、私たちがD&D Nextを構築していく際に使った技術と方法論のいくらかを紹介するのは役に立つだろう。

優先度とバランス

ここでは私たちがデザインの過程で見据えていたもの、特に呪文使いと非呪文使いの仲間との間でバランスを取るためにどうやってきたかについてを紹介しよう。私たちが武器として選んだのは単純なオプションの優先順位付けだった。

D&Dの優先順位は、たとえばクラスや習熟のようなキャラクター・オプションの分類リストである。優先順位付けではリストの一番上にもっとも重要な要素を、一番下にもっとも重要ではない要素を配置した。D&Dを構成するものでは、クラスがリストの最上位に置かれ、種族、呪文、背景、そして特技が続いた。

この順位付けは“オプションAとオプションBのどちらが優先される?”という問題を解決してくれる。

私の選んだクラスが射手としてすばらしい能力を持てるようになるなら、特技の修得や呪文の発動でその能力を得られることがない限り、他の射手の能力を与えないクラスのキャラクターよりも良い射手になれる。クラスの優先順位は呪文や特技よりも高い。したがって、クラスは勝つ。

ゲームをデザインするとき、こうした順位付けはオプションの相互作用を理解する助けになってくれる。すなわち問題に答えを出し、衝突を解決し、デザインを決定する道しるべになる道具だ。これはそれらの関係性をはっきりさせることで、ゲーム全体の要素を形作る助けになる。

より重要なのは、優先順位をつけることであるクラスに割り当てた特徴がそのクラスの突出した特徴(あるいはそのオプションを必要とする他のクラスと関連づけられる)ものとなることがわかり、クラス・レベルごとのオプションや能力も整理できるということだ。

2種類のキャラクター・オプションがお互いに競合しても、どちらがより重要か把握できる。一般則として、ゲームのより重要な部分はそれと比較して重要ではないものに勝ってなくてはいけない。だがこれは一般則としてのガイドラインで、このルールは君にデザインの出発点を与えるものだから例外はある。

呪文発動を例にしよう。君が強力な術者になりたいなら、ウィザードやクレリックのようなクラスのレベルを上昇させなければならない。君は呪文発動能力を向上させるために特技を修得したり、生まれつきちょっとした魔法能力を持つ種族を選ぶこともできる。しかし、呪文発動の頂点に立つために君はキャラクター・クラスに投資しなくてはならない。

この例は当然のことだったり直観的だと感じられるかもしれないが、よりちょっとした違いしかないクラス特徴に目を向ければ、それはとても曖昧なものになる。レンジャーは追跡をすることができるが、すべてのキャラクターは追跡に習熟して特技を修得することで彼らの能力を強化することもできるので、それはよりよいものでなければならないだろうか? レンジャーは習熟を持つキャラクター並みに追跡できるべきだろうか? 習熟してなおかつ追跡に関係する特技を持っているキャラクターの場合は?

この線引きは簡単に割り切れるものではなく見極めも難しいが、オプションの順位付けは私たちがどれを重要視すべきか理解することを助けてくれる。これの場合、私たちは背景のオプションと特技の選択をいくつかつぎ込んだキャラクターにのみ、レンジャーは追跡で遅れを取ると予測している。レンジャー以外がレンジャーの占めている場所へ入るためには本気で努力する必要がある。

一方、隠密のようなものはより曖昧だ。旧版では、ローグが〈隠密〉判定を行なっていたときにウィザードはインヴィジビリティを使っていたかもしれない。D&D Nextで、私たちは隠密などの判定がローグにとってもっとも重要な――キャラクター・クラスを定義する助けとなる要素――だと決定した。こうしてローグが隠密をするためのオプションはクラスに内包され、インヴィジビリティの呪文がそれより便利になってはいけないことになった。クラスは呪文に勝つのだ。

ゲーム・デザインに関する他のすべてと同様、この工程の多くも科学よりは技芸寄りである。オプションの順位は役立つ道具であるが、拘束具やチェックリストではない。およそ1年前、私たちのチームは順位付けについてぎこちない理解だったが、仕事を進めるにつれてより直観的で明確なものになってきた。

この方法論でもっとも大きな利益は、呪文が非術者キャラクターの能力の影を薄くしそうになるとそれが明確になることだった。ほぼすべての局面で、私たちはローグやファイターのようなクラスの能力を強化し、呪文が提供する一時的な強さを上回るようにすることを選んできた。

他の大きな利益としては、カスタマイズのために柔軟なシステムを作成できたことだ。私たちはクラス・レベルによって使用可能になるオプションが上限になる限り、隠密のオプションに対する呪文発動、その他の特技、背景、そして種族といった下位のオプションのように目立ちすぎないようになると理解することができたのである。

マイク・ミアルス

マイク・ミアルスはD&Dのリサーチ&デザイン・チームのシニア・マネージャだ。彼はレイヴンロフトのボードゲームやD&D RPGのサプリメント何冊かを手がけている。