ネコぶんこ


2014年07月24日 [長年日記]

§ [Liber] 小口覺日本ネット前史

1980年代中頃の千代田・常磐マイコンクラブ、小田原マイコンクラブなどによるパソコン通信の実験から始まり、1987年にニフティサーブが開局するまでの数年間をエピソードごとに綴った作品ですぅ。

マイコンクラブによるパソコン通信の実験について書かれたパートは、データ通信の実験に成功はしたものの電話回線を使ったデータ通信について電電公社の内部でもできるかどうかすら皆目見当がついていない状態だったので、部屋の近くで起こっている振動がノイズを発生させていると突き止めたり、有志が旅行を利用して接続実験をするなどまさに試行錯誤の連続で、先行者がいない中で手探りの道行きだったことがうかがえるですぅ。ベッコアメの前身が草の根BBSだったことについても触れられてますぅ。

パソコン通信以前のハムとラジオテレタイプやメインフレームへ端末で接続するシステムの応用、マイコンの自作などをやっていた人たちがパソコン通信へ向かう歴史も押さえられているので、全体的な技術の潮流も感じることができるですぅ。ニフティサーブなど商用BBSへのつなぎでアメリカのパソコン通信事情も少し触れられているくだりは取材相手がすがやみつるさんであることもあり『実践!パソコン通信』とやや被っているけど、CHICAGO BBSという懐かしい名前も出てきていましたぁ。

BBSの気風や文化についても当時を知る人に取材をして書いている形式なのである程度の偏りがあるのは仕方のないことだけど、どう醸成されていったかの一側面を知るにはいいものになっていたですぅ。

そして、最後の章ではアスキーネットのスタッフから聞いた運営の舞台裏や、ニフティサーブ設立前夜のCompuServeとの駆け引きなど、商用BBSのエピソードでしめられているですぅ。

こうして読み終えると、パソコン通信のエピソードはそれがメディアとして確立するまでで終わるのが必定とはいえ、だからこそ黎明以降の記録や記憶はそこで語られたものと不可分になっていくので、もはや散逸して失せ果てていくだけなのだろうと暗澹たる気持ちになる側面もあったですぅ。

しかし、パソコン通信を始めた先人たちはどんなことをやっていたかを少しでも知ることができるので、いいノスタルジィに浸れる本だったですぅ。