ネコぶんこ


2011年12月15日 試験運用の端末を警備していた気さくなハッカーが、彼に教えてくれた――ゲームがしたいなら、キーボードから「BIG JUMP」と入力すればいいよ。 [長年日記]

§ [TRR] 2011年08月14日『古戦場火』

朱春峰(男・300歳余・青龍2/白虎1/異邦人7):万の勝利を得るまで祖国へ戻らぬと誓い、日本へやってきた仙人。その正体はかつて鄭成功と轡を並べ清と戦った明帝室の一員。東方不敗と呼ばれたこともあるらしいが、本人は否定している。プレイヤは森聖氏。

“葛葉”土御門晴明(男・15歳?・朱雀2/陰陽師7/退魔僧1):表の顔は葛葉の号で浮世絵を描く少年絵師。しかし、その実体は肉体を乗り換え無窮の時を生きる高名な陰陽師。今回は古い知己、蘆屋道満こと道摩法師の足跡を発見する。プレイヤは荒原の賢者氏。

伊藤伊吹(女・17歳・白虎3/玄武3/神職4):江戸市中のさる寺に勤める巫女。親の代からそういう仕事で、何事にも動じることなく淡々と“仕事”を行なう。理解できない物事はおおよそを異邦の文化習俗として納得するため、非常に順応性が高い。プレイヤは隠者氏。

古石屋の事件から数ヵ月後。かの事件は洪水から逃げる時の混乱から起こった失火で、主人の武兵衛や奉公人数名が焼死した。という筋書きで収束した。

しかし、巷では古石屋の焼け跡に怪火、幽霊のたぐいが出没するともっぱらの噂になっていた。これをいい読売のネタと嗅ぎつけた蔦屋重三郎は、絵師の葛葉を誘って焼け跡を調べに向かった。

おりしも夏の盛り。幽霊噺にはちょうどいい季節である。

屋敷の暑気から逃れ、大川端を散策していた朱春峰は、大店が抱える千石船が浮かぶ辺りで彼らに遭遇した。

宙を歩くように陸から船、船から屋根へと飛び移り、荷をさらっていく盗人たち。

それが武林の技であると気づいた春峰が手近な者を締め上げようとした時、船から男がひとり彼の前へ飛び降り、右手を握り、左手で包んで一礼した。

反清復明を示す抱拳礼。思わぬところで出逢った故郷の慣習に面食らう春峰に、男は親しく声をかけた。
「久しいなあ、春峰!」
「成功か」
「いかにも。お前とこのような形で再び見えたくはなかったが、どうだ。ここはひとつ見逃してくれ」

春峰の前に現われたのは、かつて清と戦った戦友であり、朱氏の末裔を江湖で庇護した“国姓爺”こと鄭成功であった。江湖の者がこう言った以上、退かなければ血を見るのは明らか。春峰がこの場は見逃すと応じると、謝と声高らかに返し、賊徒は夜の闇へと消えた。

同じ頃、伊吹は寺の境内に腹を空かせて倒れていた少年を拾っていた。歳の頃十かそこら。祖母を殺した仇を探し、紀州からやってきた半之助と名乗った。伊吹は体さえ動けばすぐに飛び出しそうな彼をなだめすかし、本調子になるまで色々探ってくることを約束して寺に待機させた。

葛葉と蔦重は古石屋の跡に潜入したが、ただ荒れた風景が広がるだけだった。よく見れば、近頃の怪しい噂に誘われて潜入した若者や酔漢の残した落書きや狼藉の跡もある。
「は、は、は。化け物って風情じゃあありませんねぇ、センセイ」

などと言いながらも顔面蒼白で脚を震わせ、咽喉の渇きを癒そうと庭の片隅にある井戸へ蔦重が向かうと、その後ろに。

ぽう。と鬼火が灯った。

葛葉はそれをにやにや笑いながら見ていたが、蔦重は何も気づかずごくごくと水を飲み、「化け物騒ぎなんてガ」と言いながら振り向いて、倒れた。

倒れた蔦屋を引きずりながら、葛葉は庭での出来事を反芻していた。鬼火が出るときかすかに漂った火薬臭と、そちらから素早く逃げた何者か。この化け物騒ぎには、何か裏があるようだと。

半之助から詳しい話を訊いてほうぼうに聞きまわった伊吹は、半之助の祖母、おさんを殺した髭達磨の男が、大坂の天満屋丹兵衛という豪商のもとに身を寄せていた赤川大膳なる伊予浪人だと知る。

同じ頃、春峰はかつての友“国姓爺”のことを調べていた。すると、彼は阿片戦争後に配下の鉄人たちを伴い仙郷を下りて蓬莱神教と手を組み、南洋や台湾、琉球、日本近海などで幅広く海賊活動を行なっていた。現在は日本の船問屋、天満屋の密輸船を重点的に狙っているという。

葛葉は鬼火の正体を占い、鎌倉に幕府があった頃から続く火薬使い一族の出で大坂の仕事人、赤猫のお順の存在にたどり着く。仕事人の中では異色の、多数の陽動や殲滅を得意とする彼女の存在は、危険な女を好む彼の眼鏡にかなうものだったようで、蔦屋の相手もそこそこに街へ飛び出した。

とりあえず腕の立つ助っ人を求めて春峰のもとを訪ねた伊吹は、彼もまた天満屋関係のことを調べていると知って遊び人の金さんに天満屋のことを訊くと、手広く事業を展開し、将軍家御落胤を名乗る天一坊の後見までする篤志家としても名高い彼が、闇の世界では“天魔”と渾名される大立者だと知らされる。

しかも“天魔”の影響力は渡世人の間だけにとどまらず、抜け荷で築いた富を背景にした大名貸し、サッスーン家との協調による欧米との繋がりなど、身分や海すら越えたものだった。
「つうわけで幕府のご重役方も財布を握られてちゃあ強くは出られねえ」
「厭だねえ金ってやつは」

今後のこともあるので伊吹と連れ立って春峰が自宅に帰ると、そこでは葛葉が慣れた様子で台所を漁って食事をしていた。
火腿ハムしか無いじゃないか。いかんよこんなんじゃ」
「お前人の家勝手に上がり込んでよくそんなこと言えるな」
「まあ気にするな、ちょっと人探ししてるんだ」
「俺も忙しいんだよ俺も人探ししてるんだよ、ちょっと占え」

そんなこんなで葛葉が鄭成功の居場所を占うと、江戸湾に停泊している船の一隻だと判明し、春峰はそこにひとり向かった。

しかし、その後には火腿を丸かじりしながら追う葛葉と、その彼について行く伊吹の姿があった。

春峰が鄭の船に乗り込むと、鉄人たちが彼を囲む。しかし、ほどなく甲板に出てきた鄭が彼らを退かせ、自分の部屋に春峰を誘った。葛葉と伊吹も、その後をつけて耳をそばだてる。
「やはり首を突っ込んだか」
「放ってはおけん。話してもらうぞ」
「だから、それはできんと言っているのだ!」

「鄭は口を割らない決意をする判定を行ない、これを《剣禅一如》でクリティカルにする」
「面倒くさい奴だ。《千変万化》で《剣禅一如》をコピーしてリアクションで説得」

春峰の説得にほだされ、鄭も折れた。
「言えるわけがなかろう。お前が故郷に遺した裔が危機にさらされながら、下手を打ってしまったことなど」
「裔……? ああうん、心当たりがないわけではない。めでたい、祝おう。認知はしないが」
「最低だこいつ」
「いや妻帯を禁じる戒律とかないし」

結局、葛葉や伊吹も乗り込んだところで鄭が説明するには、明帝室たる朱家の末裔は亡命政権が滅びた後も華南でその命脈を保ち、蓬莱神教という形で存続していること。現在の朱家当主、瑶小鳳が織田弾正忠なる男の招きで援軍を求めて単身日本に渡ってしまったことを話した。
「本名だったのかよ。あからさますぎて偽名だと思ってた」
「名乗って恥じる名などない」

鄭は陰ながら見守ってきた朱家の公主の失踪を知ると、山を降りで彼女を日本へ誘った天満屋を突き止め、そこの船を片っ端から襲って検めていた。すると、天満屋が阿片戦争後に上海へ拠点を置いたサッスーン家と手を組んで日本を内側から揺さぶろうとする企ても知ってしまい、故郷の危機に矢も盾もたまらず飛んできたのだという。
「元はといえばすべて俺の問題だ。それに、お前の故郷に戻らぬという誓いを邪魔するわけにもいかぬ。だが敵は江戸の古石屋などとも手を組み、より荷物を分割して運び始め、手が足りなくなってしまった」
「俺は万の勝利を得るまで故郷には帰れん。それに貢献してもらおうか」

かくして、何かあったときには鄭と鉄人たちの協力を受けられるよう約束を取り付け、一行は船を辞した。

一旦春峰の家に戻った三人は、大坂の仕事人たちが江戸で何をするよう“天魔”に命じられているのかを葛葉の占いで調べる。すると、仕事人たちはサッスーン家から古石屋が買い入れ、地下蔵にしまわれた“カインの血”なる呪物を探していることが判明した。
「何だそれは」
亞伯拉罕アブラハムの教えで伝えられる、初めて人を殺めた人だ。デウスの罰があたって死ねなくなったらしい」
「何が罰かよくわからんが、面白い。手に入れて調べてみたい」
「慈悲深いデウスはそいつ自身が改悛するまでの時を与えたとも云われているが、よくわからんな」
「死なないのになんで血があるんでしょうね」

WoD病だ」
Gehennaでエヴァ引き合いに出して、使徒をAntediluvianと入れ替えれば簡単にゲヘナの史劇ができるとか書いてたの大好き」
「なつかしいなあ」

それはさておき、英傑たちは鄭たちに声をかけて古石屋の跡地へ向かう。鄭と鉄人たちは外と道中の露払いをし、三人が仕事人の本隊を襲撃するという手筈である。庭の片隅にぽっかりと口を開けた地下蔵に入ろうとした春峰に、鄭が身に着けていた腕環を投げる。
「二百年ものの宝貝だ。返せよ」

仕掛けられていた爆発物を解除しながら隧道を進むと、そこには素焼きの小瓶を手にした髭達磨こと赤川大膳、そして炎の匂いを漂わせる赤猫のお順がいた。
「さあて、後は引き揚げるだけよ」

「PCが健在な限り敵は奥義でしか撤退しない。最大ふたつ」
「逃がしたら?」
「カインの血は天満屋の手に落ちます」

大膳は腰のものを抜きもせず肩を怒らせ二足の狼へ変化し、お順は殺し技を放つ相手に狙いをつける。さらに、地下蔵に澱んだ悪気がそこかしこに貼られた呪符によって凝り、妖異の姿をとる。
「道満ちゃんの術か。懐かしいなあ」

そう呟く葛葉が打った式と、伊吹の拍手であっさりとしかけは解除され、仕事人ふたりとの戦いになる。人狼化して刺し違え覚悟で殴り返してくる大膳を春峰が抑える一方で、てつはうをばらまくお順に「同じ朱雀仲間だから」と葛葉がこなをかけつつ、英傑たちは持てる奥義のすべてを尽くして仕事人たちを倒した。

「倒れた大膳は《起死回生》で復活し、《神出鬼没》で退場」
「もう打ち消せない」
「次回も出るのかな」
「お順確保できればいいや。仕事人のコネ欲しかったし」

大膳は逃げたが、半之助の家が襲撃された裏には天満屋が関わっており、彼らが江戸で大仕掛けを行なおうとしていることを知った英傑たち。彼らは少年のため、カインの血のため、新たな戦いに身を投じるのだった。

これは余談たが、葛葉はかつて阿倍晴明と呼ばれていた頃に殿上人たちの娯楽として考案し、長らく失伝していた素早くめくると動いて見える絵本の技法を蔦屋に教えて売り出させた。まるで本物のように動く幽霊の絵は、江戸っ子たちの評判になったという。後の世にいうパラパラマンガ、アニメーションの源流である。

一将功なりて万骨かれし枯野にハ
燐火とて火のもゆる事
あり是ハ血のこぼれ
たる跡より
もえ出る火なり
といへり

――『今昔画図続百鬼・晦

この回は一日に二セッションすること前提の連作シナリオをやってみたけど、ミドルをの大仕掛けをひとつだけにして、それを終わらせたらクライマックスという構造にしたら、両方とも三時間弱でセッションが終わってかなりうまくいったですぅ。

まずはそのひとつめですぅ。