ネコぶんこ


2013年12月16日 [長年日記]

§ [DnD][4e][LnL] 『君には見えるか?(Can You Feel It?)』

マイク・ミアルス

先週、私はRPGにおける“感覚”の考えと、それがダンジョンズ&ドラゴンズのデザインで意味するものについて紹介した。今週は、デザインに対する特別な方法論によってゲームの感覚を特徴づけることに目を向けていこう。

D&Dの魔法システムはデザインがゲームにどういった特別な感覚をもたらせるかというわかりやすい例だ。これはまた、君のゲームへ第一にもたらされるべき特別な感覚を選択するとき陥りやすい大きな陥穽のひとつでもある。D&Dでの呪文発動はその特有な性質のためにとても熱気をはらむ部分だ。ここでわずかでも知るべきことがあるとするなら、ひとつの顕著な例外――D&D独自の呪文発動システムに影響を与えたジャック・ヴァンスの小説、『終末期の赤い地球』――を除き、魔法は多くのファンタジー小説やゲームで描写されるような特徴を持っているということだ。その結果、呪文を準備してスロットを消費することをマーリンやザターナのような創作上の魔法使いの行動と照らし合わせて解釈することができる。

その一方で、D&Dの魔法システムはとてもゲーム的な感覚をもたらす。前回のコラムで、君のプレイヤーとしての思考回路、思考、そして決断と君のキャラクターの思考回路、思考、そして決断をすり合わせることが感覚の品質だと定義した。マインド・フレイヤーがそこの角を曲がってくるとき、君と君の3レベル・ウィザードはいずれも恐れを感じながら逃げ出す算段を立てていなくてはならない。6匹のコボルドが君の12レベル・ファイターに殺到したとき、君と君のキャラクターは勝利を確信していなければならない。

同じように、D&Dの呪文発動は君が慎重にどの呪文を発動させたいのか、君自身のキャラクターそのものであるかのように考えることを要求してくる。バルダーズ・ゲートに潜入しているゼンタリムの諜報員を追跡しているとき、君は疑り深い地元民を説得するためにチャーム・パースンを準備するだろうか? あるいは発見されて戦いになったときに備えたマジック・ミサイルだろうか? 怪我をせず街の警備兵を怒らせないためにも、スリープがうまい選択だろうか? 君のキャラクターは君がプレイヤーとして呪文を選択する際に行なうのと同じ過程をたどる。この選択がプレイヤーが彼らのキャラクターの個性を表現する大きな機会になれば、もっといい。慎重なクレリックはおとなしい魔法を選ぶだろうし、ゼントを殺すと誓ったメイジは被害を無視して破壊的な呪文を選ぶかもしれない。

君はここで君自身のキャラクターの思考回路と呪文への態度をルールの言葉で的確に記述することもできる。君が3レベル呪文をひとつだけしか発動できない状況なら、それは君のキャラクターに「私は休んで力を回復させる前に、あと一回だけファイアーボールフライを使えるぞ」と語らせるための意味を持つ。君のキャラクターに知覚できる方法でシステムが世界を記述しているのだ。

もちろん、D&Dへやってくる人たちの多くは沢山の本を読み、多くのファンタジー映画を観ている。彼らが魔法に抱いている概念はD&Dが描写しているそれとおそらく合致しない。そのため、ゲームにある魔法の感覚は彼らの求めるものと違うかもしれない。しかし、私たちはわれらが信念を通し、伝統的な呪文発動システムを通してD&Dの個性であるゲームの感覚を保ち、また他のプレイヤーが抱き求める夢も――たとえば、ゲームで呪文ポイントを使いたいグループのためにオプションを作成するなどして――尊重せねばならない。

この挑戦はプレイ中にキャラクターが直面させられる決断と思考を模倣するルールを創造してゲームの雰囲気を導き出す過程にある。それにもっとも有用なみっつの方法論がここにある。

選択と結果

君が誰かに決断を迫るとき、感覚はきらめく光を放つ。あらゆる決断を迫る選択はプレイヤーとキャラクターの両方に受け止められるものでなくてはならない。君のキャラクター――ゲーム内世界の知識で動いている――と君――世界とルールの双方の知識で動いている――は、同じ原因、利益、代償、そして危険の重さを持って決断に臨まなければならない。

武器と鎧は簡単な例である。グレートソードは君により強い一撃を提供するが、ロングソードを選ぶと君は盾を持って防御を強化することができる。プレイヤーとしての君とキャラクターとしての君はこの選択に、同様の基本的な選択肢と期待される結果をもって臨むことになる。君のキャラクターは盾が攻撃を受け流す助けになることを知っている。君は盾がACを+2することを知っている。これらのふたつは同じものを意味している。これはシステムがゲーム内世界で起こることを記述しているからだ。

プレイヤーとキャラクターのお互いにとって等価な選択と結果は、デザイナがゲームの感覚に生命を与えて生きたものへとするためのもっとも基本的な道具である。

複雑な戦略、単純な戦術

戦闘中、君のキャラクターが決断をするための時間はほんの1、2秒しかない。1ラウンドの長さは6秒だが、君には実際に行動してそれを終わらせるまでの時間も必要だ。ゲーム内世界であっという間に起こることについて扱うルールの複雑度を調整するなどの行為で、感覚を阻害せずゲームへの没入を醒めさせないようにできる。

一方で、キャラクターが合理的な決断をするために時間をかけられるようなら、複雑さは許容される。ひとつの“ラウンド”で領地では数ヶ月から数年のゲーム内時間が経過するかもしれないので、王国を経営するためのルールは戦闘ルールよりも複雑にすることができる。テーブルを囲んでの語らいは議論は、参事、外交官、そして貴族たちが近くにあるドワーフの要塞と平和条約を締結するべきか、あるいはホブゴブリンの城砦を急襲すべきかの議論を模倣する。

戦闘のように展開が速い状況では、どのような決断をうながすシステムも、キャラクターがその決断を固めるまでと同じくらいの時間で決断できるようにしなければならない。そうすることで、アクションをしようとしたらプレイヤーが必要なルールを探し求めてゲームを停滞させることを避けるのだ。他の状況ならば、君はより細かな差異や演出を加えることができる。

物語的一貫性

プレイヤーが直面する決断と結果を生きたものにするのが物語的一貫性だ。それはキャラクターが生きる世界についての理解を与える。それはゲームをするため友人のロドニーとテーブルについている男であるマイクと、破壊と混乱をまき散らす混沌のウィザード、ケル・ケンディーンの間にある溝を埋めるのだ。

物語的一貫性とは単純にいってしまうと世界で起こっていることの説明だ。ほとんどの場合、それには疑問の余地がなく私たちはそれに注意を払わない。プレート・アーマーはレザーよりも防御力が高い。ジャイアントはオークより強い。しかし、システムを構築するときにゲーム内世界で起こることを見失ってしまうのはいともたやすい。君がキャンペーンのそれらしさにあまりにも多く注意を払うのなら、ルールが制御不能な量に膨れ上がるのもまたたやすい。抽象化するとき極大と微小のあわいにある中庸を見つけることは、RPGデザインの大いなる挑戦のひとつだ。

ここで例に取るのは奇襲攻撃だ。第3版で、さまざまな種類のクリーチャーはそれを無効化していた。奇襲攻撃はローグの能力で、肉体の構造を見極めてクリーチャーの急所を一突きにするものと定義されていた。ゴーレム、エレメンタル、そしてアンデッドなどのモンスターは、よく知られた肉体構造ではない、目標になる急所を持たなかった。同様に、後から明確化されたルールによってジャイアントの腕や脚にしか触れられないなら、君は急所攻撃を行なうことができないようになった。

そして、ゲームのそれらしさに迫ったことによってローグを際立たせるはずだった大きな要素の急所攻撃を曇らせることになった。ローグとして、君は戦闘中に危険をおかしつつも、機会を逃さず飛び出して致命打を与えることができる。ダンジョンを探検しているあいだ、君は静かに先行偵察を行ない、奇襲の準備をし、警報を鳴らす前に番兵を静かにさせることができる。だが、そうした没入も番兵がエレメンタルやアンデッドだとわかってしまえばあっというまで徹底的に粉砕されてしまう。急所攻撃がローグの解剖学的知識に結びついているとする考えは、キャラクターの根幹に関わる感覚を破壊してしまう。ローグとしての君の考えは全否定される。

私たちは後の版で、急所攻撃の定義をより柔軟なものにするための変更を行なった。その鍵はローグが卑怯であることだ。彼らは奇襲、裏技、そして思いがけない攻撃を好む。ローグが真正面から戦うのは、他のあらゆる手を封じられたときだけだ。ローグは生粋の戦士でも解剖学者でもなく――彼らは卑怯な日和見主義者で裏切り者なのだ。そういうわけで、ローグは敵の番兵を効果的に倒すためのさまざまな方法を知っている。君のローグはストーン・ゴーレムの脚にあるひびや、ファイアー・エレメンタルの中でまたたく精髄を見つけることも、彼や彼女が生きた敵の弱点を貫くのと同じくらい簡単にできなければならない。

たとえ君がゲームのルールで考え、君のキャラクターは状況を“現実”的な言葉で説明されて理解するのみであっても、物語的一貫性は君と君のキャラクターがある状況で同じように思考することを可能にする。その状況を説明するのに充分な詳しさと、充分なあそびを持ち速く処理するために必要なだけの抽象化された使いやすいルール一式の中庸を求めるとき、物語的一貫性はもっともよく作用するのである。

これらの方法論に頼っても、感覚は科学的というよりとても芸術的なものだ。デザイナのとても巨大な挑戦は、私たちの目指している感覚がゲームにとって正しいかを確認することだ。先週も話題にしたように、私たちのプレイテストでもっとも有益だったのはD&Dプレイヤーとの対話を始めることにより、彼らがゲームについて考えていたことを学ぶことだった。17500人以上のプレイヤーが参加したプレイテストで、R&Dチームとより幅広い範囲のD&Dプレイヤーがゲームの感覚について考えるときに同じ意見を持っていたことを確認できたのだ。

マイク・ミアルス

マイク・ミアルスはD&Dのリサーチ&デザイン・チームのシニア・マネージャだ。彼はレイヴンロフトのボードゲームやD&D RPGのサプリメント何冊かを手がけている。