ネコぶんこ


2010年12月04日 「あなたが――蜘蛛だったのですね」 [長年日記] 編集

§ [TRR] 2010年08月22日『幽谷響』

朱春峰(男・300歳余・青龍2/白虎1/異邦人2):万の勝利を得るまで祖国へ戻らぬと誓い、戦国日本へやってきた仙人。国性爺の戦友で、“東方不敗”のふたつ名で呼ばれたことも? (おそらく)明人で朱姓なのが意味深な剣士。現在は田沼家の用心棒。武士道から騎士道まで幅広く扱う。プレイヤは森聖氏。

“葛葉”土御門晴明(男・15歳?・朱雀2/陰陽師3):表の顔は葛葉の号で浮世絵を描く少年絵師。しかし、その実体は肉体を乗り換え無窮の時を生きる高名な陰陽師。土御門家とは微妙な関係らしい。幕府嫌いだが、朝廷を利用しようとする輩にも眉を顰める。プレイヤは荒原の賢者氏。

伊藤伊吹(女・17歳・白虎1/玄武1/神職3):江戸市中のさる寺に勤める巫女。親の代からそういう仕事であるからか、妖異との戦いを使命と感じているからか、割と戦いに手馴れている。プレイヤは隠者氏。

春峰が近藤周助という剣客が開いた道場、試衛館を訪れると、借金の取り立てに来た破落戸たちが狼藉を働いていた。多摩から遊びに来ていた近藤の恩人の倅、勝五郎が独り立ち向かっていたので春峰は軽くいなして追い返す。

しかし、間もなく戻ってきた近藤に事情を訊ねてもはぐらかされるばかり。勝五郎が言うにはこのような嫌がらせが度々あるという。彼の頼みもあり、春峰は少々近藤のことを調べることにした。

伊吹は寺で婦人から相談を受けていた。信心に入れ込みすぎた彼女の夫は、大店の店主でありながら最近は店のことまで奈伎土神なぎつちのかみという神の託宣を仰いで決めるようになってしまったという。“御前さま”から紹介された仕事ということもあり、彼女は渋々腰を上げた。

一方、晴明は飯屋で意気投合した歳三という薬売りと飲み歩いている途中、人だかりにぶつかって野次馬を決め込んでいた。

通行人に事情を聞くと、松坂屋という呉服屋が奉公人を雇う約束を反故にしたせいで、職にあぶれた人たちが怒鳴り込んできているという。

松坂屋。という店名を聞き、歳三の顔色が変わる。
「どうしたとっしー」
「その呼び方はやめてくれないか。それよりこいつを見てくれ」
「歳三だからとっしーでいいじゃないか。友達なんだし。何だ何だ、良く出来た絵だな」

彼が懐から取り出したのは、今から数十年後に渡来するはずの“写真”だった。そこには、しかめっ面をしたとっしーが新撰組のだんだら羽織姿で写っているが、うっすらと消えつつある。

とっしーは自分が今から少し先の時間からやってきた人間だと正体を明かし、未来から持ってきた写真の変化に歴史改変の兆しを感じ取り、晴明に協力を求めた。

「ははあ、すると今回のエンディングは……ということだな」
「それで新撰組が誕生すると」
「いい話だった」
「ではミドルいきましょうか」

「おお小娘だ。今から醤油屋行くからちょっと来なさい」

エンディングを早々に済ませ、春峰は近藤に道場と金を貸している醤油屋の山田屋権兵衛を訪れた。山田屋が近藤に何度か金の催促をしている現場を近所の者が見ていたのだ。

伊吹の助言もあって春峰が山田屋から穏便に事情を聞くと、彼は楊見社ようけんしゃという社に祀られた奈伎土神の託宣で金回りを綺麗にしないと身代が傾くと告げられ、近藤に借金の返済を迫っていたのだという。

商売のことまでお告げに頼るのは良くないと山田屋を説教し、伊吹も奈伎土神を追っているということから、ふたりは専門家の晴明のもとを訪れた。
「奈伎土神とやらは知らんが、松坂屋に関わってるんならとっしーの件にも繋がってそうだ」
「とっしー?」
「ああ、こいつだ。さっき無職になったとっしー。俺のダチ」
「とっしー言うな。それに俺は薬売りという仕事がだなあ」
「それじゃあ昨日はいくつ売れたんだよ」
「聞かんでくれ」
「ところで、未来とはどこの国ですか。唐天竺のようなところですか」
「そんな事も知らんのか小娘」
「知りません。どこですか」
「遠いところだよ」
「なるほど」

さておき、三人が奈伎土神とそれを祀る楊見社を調べたところ、他所の神社や寺と驚くほどに繋がりが無い。そのため、一度拝みに行こうということになった。

三人揃って敵情偵察へ行くと、楊見社の前は社の外まで続く行列とそれを当て込んだ物売りや芸人で賑わっていた。社の中へと通され、お祓いを受けながら晴明が辺りを窺うと、建物の様式や並べられた祭具はほとんど様式も宗派もバラバラ。参拝客を惑わせるためのはったりに過ぎないとわかったが、そこに紛れた拙いながらも本物の式を見つけ、陰陽道の本家門元である晴明は非常に怖い顔をする。

講話を聞く段になると春峰が「いやあ手っ取り早く金を儲ける方法が知りたいですなあ!」「次は何の相場が来ますかなあ!」と大声を張りあげて宮司と巫女の顔に青筋を走らせたりはしたが、一通りの参拝を済ませて三人は社を辞した。

「あそこは潰す」
「まあ有害だわな」

道端で晴明が怒りも露わに宣言する。あの社で行なわれていたお祓いは、陰陽道の撫物を応用して参拝者の欲望を奈伎土神の神体に蓄積させて力に変換する式だという。しかし、陰陽道は祀った神に力を与えてもらうのではなく、神を使役する業。それを付け焼刃で行なうと早晩欲望の纏わりついた神が暴走を始めるのは火を見るより明らかである。
「それに俺はああいう動けばいいというようなやり方の式は大嫌いだ。美が無い」

美的感覚はさておき、三人が楊見社を潰す算段をしていると、勝五郎少年が駆けてきた。
「道場が襲われて、近藤先生が!」

おっとり刀で試衛館へ駆けつけると、近藤が明らかにこの世ならぬ気迫を持った剣客たちに囲まれていた。彼も奮戦するものの、妖異の力を得た剣の前に倒れてしまう。 駆けつけた英傑たちの手で羅刹たちは倒され、近藤も《起死回生》で事なきを得る。だが、羅刹に力を与えていた楊見社の札と、宮司は試衛館を潰して新たな社を造ろうとしているという情報が、事件にさらなる不気味な影を落としてきた。

田沼屋敷でとっしーと合流すると、山崎烝の内偵によって楊見社の宮司が時空破断で未来から時を遡った新撰組の隊士、武田観柳斎であると判明した。そうだとすれば、情勢や相場の情報を中てているというのも道理である。既に知っている事を話せば良いだけだ。そして、観柳斎の名に含まれた言葉を使って柳の古語である奈伎を含んだ奈伎土神に繋げる式を打ったのは忍び崩れの巫女、呼子丸だったと判る。

三人は田沼に話を通し、とっしー、山崎他の新撰組隊士と合力し楊見社と影響下にある者を一網打尽にする計画を練る。折りよく例祭の夜は近く、主だった者をまとめて祓うのには丁度よい日取りであった。

「晴明。周りは固めた。鼠一匹這い出せはしないぜ」
「助かるとっしー。ところであの羽織は?」
「俺なあ、あれ嫌いなんだよ。格好悪いじゃないか」

とっしーは一瞬苦笑するがすぐ精悍な顔へと戻り、篝火で煌々と照らされた楊見社の扉を蹴破る。
「新撰組だ、神妙に致せ!」

しかし、信徒たちはそれに怯んだ様子もなく四人の方へ向き直る。その目は、既にまともな人間のものではなかった。
「無駄ですよ土方さん。この時代に新撰組はまだ無いのですから。そして、これから先。この武田観柳斎が描く未来にもね」
「うるせえ馬鹿。もう一回同じ歴史辿って好き勝手しようって了見が負け犬根性染み付いてるんだよ」
「“東方不敗”……! 所詮明の滅びを止められなかった歴史の敗者風情が!」
「どうでもいいんだけどさあ。陰陽道をこういうチンケな事に使わないでくれるかなあ。式も汚いし。殺すよ? 聞かれなくても殺すけど」

雑魚はとっしーと新撰組に任せ、押し寄せる信徒を倒しながら前進した春峰と伊吹が呼子丸を倒し、別の方向へ逃げようとしていた観柳斎は晴明とお互いMPが切れた末の泥仕合の末、脇差の一突きで倒れた。

式の制御が外れて暴走した奈伎土神も三人に襲い掛かるが、晴明が《広大無辺》で楊見社ごと更地へと戻し、ここに江戸の流行り神騒動は終結することになる。

しばらく後、とっしーは晴明との約束通りだんだら羽織姿で絵師、葛葉の題材となり、その錦絵は江戸の街で好評を博した。

この絵をいたく気に入った宮川勝五郎――後の近藤勇は、新撰組を結成し局長となった時に揃いのだんだら羽織を誂えさせたのだが、それはまた別の話である。

今回は土方歳三が江戸で奉公していた頃の逸話が様々あるので、それならタイムパラドックスで両方本当にしたらよかろうなのだと思いついて作った新撰組前史なシナリオですぅ。

最初に消えていく写真という定番のモチーフを出したせいか、うまく共通認識が作れてスムーズに話が進み、新撰組のだんだら羽織の由来という予想外の着地点まで到達できたのは望外の喜びですぅ。


2010年12月06日 自信がない時にはパセリを使おう。 [長年日記] 編集

§ [TRR] 2010年09月23日『鈴彦姫』

朱春峰(男・300歳余・青龍2/白虎1/異邦人4):万の勝利を得るまで祖国へ戻らぬと誓い、戦国日本へやってきた仙人。国性爺の戦友で、“東方不敗”のふたつ名で呼ばれたことも? (おそらく)明人で朱姓なのが意味深な剣士。今回は都の剣士、烏丸少将と邂逅する。プレイヤは森聖氏。

“葛葉”土御門晴明(男・15歳?・朱雀2/陰陽師4/退魔僧1):表の顔は葛葉の号で浮世絵を描く少年絵師。しかし、その実体は肉体を乗り換え無窮の時を生きる高名な陰陽師。『京洛夢幻』で退魔僧を取得し、手広く学んで後に陰陽師というクラスを作ったことをアピール。プレイヤは荒原の賢者氏。

伊藤伊吹(女・17歳・白虎2/玄武1/神職4):江戸市中のさる寺に勤める巫女。親の代からそういう仕事であるからか、妖異との戦いを使命と感じているからか割と戦いに手馴れており、何事にも動じることなく淡々と“仕事”を行なう。プレイヤは隠者氏。

伊吹が勤める寺の近くに、いつの頃からか棲みついた医者がいた。

名を、直勝利という。

腕のいい蘭方医でありながら、素封家の治療で得た儲けで恵まれない人々にも医療を施し、非常に慕われているが、彼は一度も人前で笑ったことが無かった。

ある日、伊吹の寺で行なわれていた葬式の列を見ながら彼は彼女に呟く。
「あの亡くなられた方は、私の患者でした」
「悪くなりすぎていて手の施しようが無かった」
「救えない命がある限り、残された人は悲しむ」
「医学は、不完全です」

「よくある病気だ。主な症状はボスになるなど」
「『JIN』なんて漫画もあるし未来人かな」

数日後、勝利は道具一式を持ったまま失踪した。

春峰は田沼意次から都より内密に下向している使者、烏丸光弘に関する愚痴を聞いていた。

対妖異の協議。という名目で江戸を訪れてはいるものの、公然と反幕を口にする彼の首に鈴をつけたがっている幕府要人は多い。されど、幕府の人間を監視に回せば無用な軋轢を生む。田沼邸の食客が個人的な興味で烏丸少将の身辺を探って田沼に世間話をすると助かるが、そんな都合のいい事はそうそうなかろうと。

田沼の愚痴をひとしきり聞いた春峰は、彼女が他意無く与えた小遣いを懐に江戸の街へ繰り出した。

晴明は絵師、葛葉としての打ち合わせが上首尾で運び、いい気分で家路についていたが、隅田川沿いの霊岸島でぬかるみに足を取られ、一張羅が泥まみれになってしまう。

どこかの小僧がへまをしたなら染み抜き代のひとつでも取り立てて憂さを晴らそうと顔を上げて見てみれば、そこかしこの地面から水が吹き出して建物までもが傾いでいた。

その様子を橋の欄干に腰掛けて愉しげに眺める少女を認めると、彼はその周囲を固めている神職のような風体の者たちを一喝して詰め寄る。
「無礼者! いづる姫になんたる狼藉!」
「へえ、君いづるって言うんだ。あの大水、君がやったでしょう。一張羅が汚れてしまったんだが。どう落とし前つけてもらえるんですかねえ」
「そのような小さきこと、妾は知らぬわ。どうしてもと言うならくれてやる」

そう言うといづるは小銭を足元へ投げてよこすが、晴明はこれで完全に頭に血が上った。
「あのな。金出して何とかなると思ってるの? まずは謝罪でしょう。それに染み抜きって金かかるんだよ?」
「お待ちくだされ。お若い方ここは抑えて、いづる姫様も! このような者たちに惑わされずお山にお戻りください!」
「吾平爺は頭が古い。私たちはこれから戦うの、そのための準備も進んでいるわ」

晴明といづるが口論していると小さな老人が割って入り、神人たちにいづるを離すよう詰め寄るが彼女は聞く耳を持たず《神出鬼没》でどこかへ去ってしまう。

「奥義使用前に隙はあったろう。式を打って攻撃」
「通し。いづるはエキストラなので判定せずとも命中しますが、効果は打ち消された」
「ち」
「ふうん」

大水から逃れ、晴明はいづるとの間に割って入った吾平老人から話を聞いていた。彼らはいづるの一族を代々守り、幕府や朝廷の庇護を受けずに関八州の野山で生きてきた氷川衆と呼ばれる一党だった。しかし、姫をはじめとする若者が細工物や山菜を売って金子を得るために接触していた商人に街の暮らしを吹き込まれ、山を降りて行方が分からなくなっていたという。

晴明はいづるを探して連れ戻して欲しいという吾平の頼みを、聞き分けの無い子には折檻をしても良いということを条件に聞き入れた。

烏丸のことを調べていた春峰は、彼が意図的に幕府との協議を長引かせていること、烏丸の下向より少し前から朝廷と繋がる公界の者たちが江戸で何かを探っていることに行き当たり、紆余や曲折を嫌う春峰は烏丸の宿舎に乗り込んだ。
「頼もう」
「何者」
「少将殿に取り次いで頂きたい」
「身の証も立てられぬ者を取り次ぐほど暇なお方ではない」
「三下に話しても埒があかんから少将殿とお話をする。奥に通しなさい。ほらそこにも隠れてる! 弱い奴は気配を隠せないのだ」

門番を軽くいなして烏丸少将の部屋に押し入る春峰だったが、自身もひとかどの武人である少将の力量と、本当に気配を隠している護衛の数を読んで威儀を正す。
「おやおや。この夷振りは何かの余興であらしゃいますか」
「単刀直入にお聞きしたい。あれだけ兵を揃えて江戸で何をしておられる」
「ならばあなたがどこの者かなど野暮も聞きますまい。麿は幕府さんとお話をするついでに旧き宸憂を除こうとしておっただけ。勅許も無しに徳川さんへ弓引こうとは思うておりません」

それに、あの数では徳川さんの首は取れません。さらりとそう言葉を結ぶ。
「幕府の力を借りる気は?」
「麿らが行なうのは国譲りの頃より続く朝敵との戦い。幕府さんとは関係ありません。彼らが神の骸を見つけ、反魂の術を成そうとしておるという話を小耳にしたゆえ、わざわざ麿が東下りすることになったのです」
「それなら私の腕を売り込んでおきましょう。実を申せばこの朱春峰は用心棒稼業でしてな」

朝廷の狙いが幕府よりも旧い何かであるということを掴んだが、皆目見当がつかない春峰。すると、門前でばったり晴明と出会った。晴明は水害の裏を取るついでに朝廷方から妖異の専門家として遣わされた子孫の土御門泰宏を訪ね、服を汚されたことについて愚痴を垂れていたら、出奔して放置したままになっている家伝書の続きを書くよう催促されていたのである。
「おや、これはこれは呪い師殿」
「誰かと思えば唐の人。俺の服に泥かけた奴ら知らない?」
「知らねえよ」

伊吹は遊び人の金さん(情報収集の演出用に伊吹が取得したコネクション)と勝利のことを調べていた。すると、彼は材木問屋の古石屋を往診したのを最後に行方がわからなくなっているという。そして、彼の正体は欧州で生命の研究をしていたヴィクター・フランケンシュタイン博士だということもわかった。

「ああなるほど。Victorで勝利、Frankensteinで直ね」
「なんでヴィクトルじゃないんだ」
創玄推理文庫のやつ読んでそうだったからだけど、定訳はヴィクターぽい」
「彼はこの時代の人なのかね」
「出版が1817年だから日本でいう化政期。映画だと博士の死が1794年と明記されたのもあるし、居ても不思議は無いでしょう」
「わかった。北極海に帰れ」

ついでに古石屋について金さんと捜査を進める伊吹は、店主の武兵衛が自分も霊岸島の店が被害を受けたというのに水害の復興支援を始めるなど、街の人々から慕われる親分肌の人物であることを再確認する。しかし、彼が倒幕派の中でも特に過激な思想によって排斥された、幕府や朝廷など権力機構すべての打倒を掲げた者たちと懇意にしていることも知った。

「今度はアナキストかよ」
「19世紀後半くらいから流行り始めたので問題ないでしょう。時空破断もあるし」

春峰と晴明はいづるたちの逗留先が古石屋が深川に持っている寮だと突き止め、伊吹を捉まえるとそこへ乗り込む。妖異の力を得た氷川衆と戦いになるが難なく下していづるへと迫るが、やはり攻撃が通用しない。
「無駄じゃ無駄じゃ」
「腹立つなあこの餓鬼」
「お迎えに参上しました。イヅルお嬢様Fräulein Izuru
「おお。ふらんけん殿。出来たのか?」
はいJa。あなた方のカミは医学の力で再び命を得ました」

そこへ白衣に身を包んだフランケンシュタイン博士が現れ、不可解なやり取りの後《神出鬼没》で二人は去ってしまう。

「参考までに言っておくと、いづるは巨神装備の『無垢なる魂』です。本体の巨神をどうにかしない限りデータ的な危害を受けません。説得なども不可」
「やっぱりな」

氷川衆やそれを操る古石屋が新たな力を得たことに事態を重く見た晴明は、開府の頃より江戸の街を見守ってきた天海の許を訪れ、事情を質した。
「神田山を切り崩して埋め立て工事をしておる折、岩の棺が掘り出されたことがございます。巷説では将門公の墓所と囁かれましたが、それは真実ではございません」
「今回の事と関係あるのか」
「ええ。その棺に葬られておったのは、国譲りをよしとせず出雲よりこの地へと移り、この地でもまた帝の軍勢に破られた古の神。大宮の氷川神社に祀られておる神の骸でございました」
「は!」

そして天海は発掘された龍神の系譜に連なるその神を、埋立地を安定させる要石として海へ投じたという。だからこそ、その神が復活して力を揮えば、江戸の街は再び海へ沈んでしまうかもしれない。
「神の怒りも氷川の神を奉じる氷川衆の怒りも私一人で受けるならそれもよし。なれど、江戸の人々を犠牲にするわけにはいきませぬ」
「いいさ。旧い者は旧い者同士よろしくやってくる」

晴明が春峰と伊吹に合流して霊岸島へ向かうと、既に神の力が漏れ出し始めたのか地面が流砂のような状態になっていた。烏丸少将配下の八瀬童子や土御門家の陰陽師たちも術で住人を操って退避させてはいるものの、古石屋の屋敷へ突入する余裕は無かった。

英傑たちは人ごみとぬかるむ地面をFS判定で掻き分け、鼻から若水を吹き出しつつ古石屋の塀を蹴破り、用心棒を怒鳴りつけて倒幕派浪士と氷川衆が集結している中庭へ踊り出た。
「遅うございますよ。フランケンシュタイン先生のお力で氷川の神は黄泉還りました。もうすぐ江戸の街は海へと没し、我らが江戸城を落とすのですから」

英傑たちを前に、自らもカラクリ倍力服に身を包んでカラクリ武者を従えた古石屋武兵衛は朗々と演説を続ける。
「私は激しく動く世、強者がより強く輝き、新しきものを作り出していく世の中を見たいのです。そのためには幕府も朝廷も、弱者がすがりつく権力は滅する必要がある。氷川衆の方々は立派です。自らの神を恃みに再び世と対峙しようとする覚悟がある」

古石屋の演説が止まると、春峰たちは静かに口を開いた。
「言いたい事は済んだか。死ね」
「一張羅の染み抜き代出せよ」
「勝利先生、あなたは騙されています」

「いづるは氷川の神を覚醒させます。帆布のかけられた塊がマントのように捲れ上がり、ところどころに導線や歯車が露出した鱗ある巨人が出てくる」
「だっせえ」
「うるさい。今回は小さな鉄片繋ぎ合わせた挂甲を何も知らない人が見たら鱗に見えたという感じの考証なの。ちなみにFS判定でフランケンシュタインの施した措置を破壊しても氷川の神は無力化されます」
「まあいい。叩いて直す。氷川の神を攻撃」
「命中して奥義で弾いた。こんなの」

《※難攻不落・参式》
対象:自身
タイミング:常時
効果:この効果は、防御修正や特技などによるあらゆるダメージ減少の前に発動する。〈神〉属性を除く50点以下の実ダメージを無効化する。

「FS判定やれってことかね」

三人は屋敷からわらわら出てくる浪人(エネミーを呼び出す特技を持った「屋敷」というエネミー)とカラクリ武者を操る古石屋と戦いながら、氷川の神からの攻撃に春峰が耐えつつFS判定を行なう。

「FS値上がって《※難攻不落・参式》解除。氷川の神が自我を取り戻しPCのために《天を砕く者》使えるようになります」
「せっかく上げたからこのまま突っ切る。また成功」
「氷川の神が自分を破壊するようPCに言い、《天佑神助》を使用。制御装置の外殻破壊をするので判定が【体力】に」
「任せた春峰」
「中華剣で外殻も導線も叩き斬る」
「ハッキング完了」
「まさにハッキングだ」

春峰が神の骸を操っていた装置を力任せに斬り裂くと、神はゆっくりとくずおれて再び眠りについた。後は奉行所にでも任せる事にした三人の英傑は、そそくさとその場を去る。

しばらく後、フランケンシュタインは残していた仕事を片付け、ほとぼりが冷めるまで地方で蘭方医療を広めると伊吹に告げて旅に出た。

春峰は少将からいつか手合わせしたいという言伝をもらい、晴明は家伝書のことについて現当主に釘を刺される。という一幕もあったが、氷川衆の一件が片付いたため、烏丸少将や土御門など都からの訪問者も帰っていった。

氷川衆もまた山へ戻る仕度を整え、三人に別れを告げに訪れた。
「今は山の民も里と関わらなければならぬ時代。新たな身の振り方を考える時が来たのかもしれませんのう」
「そうじゃのう爺。街も悪くなかったぞ」
「そういえばお前にはお仕置きがまだだったな。尻を叩くだけで勘弁してやろう」

晴明に追われるいづるの悲鳴が江戸の街に響き、旧き神を巡る一件は幕とあいなるのだった。

かくれし神を出し奉んとて
岩戸のまへにて神楽を
奏し給ひし
天鈿女のいにしへも
こひしく夢心に
おもひぬ

――『百器徒然袋・下

今回、FS判定はダブルクロスの『インフィニティコード』に収録されたハプニングチャートを改造して使ったら、何もしないでもそれなりに波乱を含んだものになって良い具合だったですぅ。


2010年12月13日 ほかがすべて失敗したら、オレオを飾りとして使おう。どんな料理にも合うし、誰でも好きだ。 [長年日記] 編集

§ [Promiscuus] 妙に印象深い

絵が苦手と言う後輩を「大丈夫、絵は私が描く。だがその前に我々はお互いを理解する必要がある。君の漫画への情熱は本物だ。だから作画する私が思考の常態を知ることができる――そうだね。例えば君が常日頃アイデアなどを描いているノートを見せてもらえないだろうか」など言いくるめて創作ノートを借り、後日サークルで「さて、彼の恥ずかしいノートを借りてきたのだが」と言って開陳しようとしたらゲス呼ばわりされる池田秀一声の先輩。という夢をみたですぅ。

本日のツッコミ(全2件) [ツッコミを入れる]

§ 黒猫トム [池田秀一ごえの先輩、というところで抱腹絶倒したことを告解します。]

§ Louis Vuitton Outlet [louis vuitton bag outlets ネコぶんこ(2010-12-13) Louis Vuitton..]


2010年12月24日 まずエンジョイしろ。質問はあとですればいい。 [長年日記] 編集

§ [Promiscuus] シュトーレン到着

今年のシュトーレンが届いたですぅ。

でも今年はどこを探してもターキーが無かったですぅ。