ネコぶんこ

ブラック・シストを倒して地上へ戻ると空はもとの青さを取り戻していたが、出かけたときよりも街は騒然とし、蒼の塔にも各地からの連絡員がひっきりなしに出入りしている。冒険者たちは別室で報告を取りまとめていた司祭長のもとへ通された。
「なかなか大変ですよ。この街すら陽動だったかもしれません」
「なら説明頼む。それが君ら有象無象〈ＮＰＣ〉の仕事だろ」
「ハハハ後で覚えとけ。ともあれ、この街が擬似次元界に取り込まれると時を同じくして、世界各地で異変が起きています」

いわく、黒河流域の紛争地帯に隕石が落下。小競り合いをしていた人間とオークがもろともに蒸発し、その内部からタラスクが出現。スリアの廃都にある大穴からもタラスクのような生物が出現。さらに東の辺境エンダ＝ケシュの荒野でも吟遊詩人が物語の中に謡うタラスクが目覚めたという。
「タラスクはひとつの世界にひとつの存在のはずだ」
「ええ。しかし廃都のタラスクはスードゥナチュラル種でした。この宇宙のタラスクではありません」
「すると、隕石から出てきたのは」
「われわれが住むこの世界が物質界で唯一の世界ではありません。空の果て、星の向こうには別の世界があるといいます。恐らくはそこからやってきたエクストラテレストリアル種でしょう」
「ああ納得はいかんが理屈はわかった」

さらにカーレリアではヴァンパイアが評議会を襲撃、評議会側は多大な犠牲を払いながらも未だ抗戦中。その他の各地にもヴァンパイア率いるウォーフォージドの軍勢が出現し、小さな村を襲って戦力を増強しながら進行しているとの報告が出る。

「そして」
「まだあるの？」
「残念ながら。この街が呑まれたのと同じ頃、“風の王”の神殿、赤竜ゲクルスの塒、ドワーフの虹光洞にもまた同じような擬似次元界が展開され、物質界から切り離されました」

“黒き月の輩”は一気に切り札を切った。というのが結論だった。彼らは表舞台から姿を消して軌道に上がり数百年の間溜めてきたものを吐き出し、何かをなそうとしている。

「中に残されたドワーフがいるなら助けなイと」
イーグルオウルの提案でパーティは下水に残されたものの解析を他の者に任せ、作業を行っていたドワーフたちが残されている鉱山、虹光洞へとグレーター・テレポートで跳んだ。もしヤゼインと同じことになっていたら一刻を争う。

中に入ろうとするものの命を吸い取る擬似次元界の境界をやすやすと乗り越えた冒険者を待ち構えていたのは、デモダンドのファラスチュ（『FF』）とヴァンパイアのモンクたちだった。

神々の悪戯により裸体主義者となったモンクたちはその数と試行回数の多さでリリシアへの生命力吸収を成功させるが、それが逆に脅威とみなされて萌えキャラのメテオ・スウォームでなぎ払われてしまう。しかし、その時にリリシアも巻き込まれてしまった。
「お前、今わざと私巻き込んで撃たなかったか？」
「そんなことはないにょー。不幸な事故だりゅん☆」
「悪いけどここは抑えて、後でしつける」
「いいけど次やったら洒落じゃ済まさんから」

一悶着あったが今は敵の掃討を行う方が先ということには変わりない。パーティはガス化して坑道の奥へ逃げたヴァンパイアを追って杭で心臓を貫きとどめを刺し、何かを掘らされていたドワーフたちを助け出す。彼らを生かしておくためなのか負のエネルギー界から次元界特性は流し込まれていなかったが、ヴァンパイアの食餌とされていたドワーフもいたため、危険なことに変わりはなかった。

ドワーフの話によるとこの虹光洞は土のエネルギー界との繋がりが強く、昔から珍しい鉱物やクリーチャーが掘り出されていた。ヴァンパイアたちはかつて掘り出されたガーングラス（Garngrath、『MM5』）の二匹目を探しているようで、そのために鉱夫を生け捕りにして働かせていたらしい。

仕上げにドワーフたちからヴァンパイアの親玉たちが拠点にしている坑道の中にある神殿への道と道中に仕掛けられた罠について教えてもらい、パーティは危険を回避して親玉の部屋へ突入する。

「新世界の到来、邪魔はさせん」

神殿には体を赤い戦化粧で彩ったヴァンパイアのニンジャたちと、脈動するブラック・シスト、それを護るようにくろがねの威容を誇示する悪のアース・エレメンタル・プリンス、オーガモク（Ogremoch）のアヴァター、ブラック・ロック・トリスケリオン（『MM4』）が待ち構えていた。

が、ブラック・ロック・トリスケリオンはあっさりとイルダーナフのウォール・オヴ・フォースに閉じ込められ、ヴァンパイアもサーシャが狭い部屋の中に発動させたサモン・モンスターで分断された。

連携を乱されたモンスターたちは各個撃破され、床に穴を掘って出てきたブラック・ロック・トリスケリオンも合金の打撃（Metal Strike）でリリシアに驚きを与えるだけであっさりとガラクタにされ、ブラック・シストにはサーシャからディスミサルが飛んだ。

ブラック・シストが消えると、次元の裂け目は残ったままになったが擬似次元界は崩壊した。パーティはドワーフたちから宝石とホーン・オヴ・ガーングラスをお礼として受け取り、ヤゼインの蒼の塔へ帰投すると、司祭長が飛び出してくる。
「アレが何なのか大体分かりました。ちょっと、否、かなりまずいことになった」

蒼の塔の解析班が下水にできた次元の裂け目を解析した結果、ヤゼインや虹光洞を覆った擬似次元界は以前リリミックの洞窟で行なわれていた元素の増幅効果に加え、物質界との接続を遮断して直接エネルギー界と“どこか”を接続する導管の役割を担っていたことが判明していた。
「その媒体として使われているのが、ブラック・シストと」
「ええ。あの裂け目がある限り早晩新しいブラック・シストが現れるでしょう」
「きりが無い。元はどこにある？」
「導管を逆探しましたが、影界で途絶えています。直接辿って攻撃されないように防壁を置いているんでしょう」
「次はそこネ」
「その前に一日休ませてくれ。持たん」
「ジゃその間に買い物」

一夜明けてパーティは解析された座標へグレーター・プレイン・シフトで飛ぶが、そこには茫漠とした白と黒の荒野が広がるだけだった。イーグルオウルが調べると、近くに祠のように整備された洞窟があり、そこには３×３のくぼみと９つの球体が収められている。
「そういえば」

誰ともなしに気がついて昨日黒き月の輩のヴァンパイアから奪ったリングを見てみると、内側に銘が刻まれていた。

秩序と混沌、
善と悪、
人は両極の間に己が位置を求める。
しかし、
われらは両極に在ることを求める。

ままよとその配列を試すとあっさりと祠の周囲が歪み、どこか別の場所へと移動する。周りは人工の石壁で囲まれ、正面には鋼鉄の扉が行く手を塞ぎ、空か天井のあるはずの場所にはし白黒まだらの渦が巻いている閉鎖された次元界だ。あからさまに要塞の雰囲気を警戒しながら扉を開いた先の中庭には、スチール・プレデター（『FF』）とグレーター・シャドウ・エレメンタル（『ToM』）が待ち受けていたため、ペットが欲しかったイーグルオウルとリリシアがそれぞれマス・チャーム・モンスターと魅惑の凝視を試みるが失敗。殲滅することになり、サーシャのディスミサルなどであっさり駆逐する。

中庭から行ける別の部屋へ向かうと、そこではウォーフォージドたちが食事を作っていた。サーシャがウォーフォージドを自分たちはここの主の仲間で、変更することがあるからやってきたと手名づけて事情を聞くとこの料理は、中庭にあるポータルの先に住む彼らの創り主が必要としているので毎日届ける習慣になっているらしい。

また、話を聞くうちに物質界に出現した黒き月の輩が率いていたウォーフォージドたちはここで創られたものだと判明する。別の工房に案内されると、そこではウォーフォージドたちが同族の仕上げ加工を行なっていた。

同族が使役されているのを見てイーグルオウルは思うところあったようだが、内部にまだ幹部がいる現状で下手に動かすのは彼らも危険にさらすことになるためこらえ、パーティは中庭のポータルから次の階層へ向かった。

次に出てきたのは、図書館のような建物の中。一連の流れで、この砦が置かれた空間は影界の一部が折りたたまれ、擬似次元界として再構成されているらしいと何人かが気づいた。

図書館ではデス・スラードが何かを行なっていたので、サーシャが先んじて声をかける。
「あー、俺は本部からの監査だ。君はここで何をしているのかね？」
「ハ、わたくしはここで新世界到来のために行なうべき次元界の変性についての」

くだくだと長い説明が始まりそうになったので、サーシャはまた機先を制した。
「言いにくいんだけどさあ、この研究所の役割も終わったので上は縮小を考えてます。で、君もクビってことで」
「そんな！　まさかアレが！」
「アレ？」
「実は……ハルク・オヴ・ゾレチャ（『EE』）が暴走しまして……。幸い実験室を封印したので問題はありませんでした。これは所長たちの命令で口止めされていたのですが」
「それは大変だ！　責任問題だ！　で、ハルクを回避して他の部屋に行く道順は？」

かくしてパーティは哀れなデス・スラードから情報を得ていくばくかの餞別を与えて解雇すると、彼が教えてくれた連絡通路を使って別室へと向かう。

次の部屋にいたのは、ドレッド・レイスを秘書として従えたデス・ジャイアント（『EE』）。彼にもサーシャが一連の事情を説明し、ハルクの暴走について隣の部屋にいるイリシリッチ（イリシッドのリッチ、『LoM』）の副所長と少し話をしてくると因果を含めてパーティは副所長室へと向かった。
「イリシリッチからはマジで潰したほうがいいと俺は思う」
「所長室へ行くためにも必要だし、一般研究員の情報を一人で掌握できてるのはまずい」
「一般研究員はお互いに接触薄かったらしいので言うだけ言えばよかったしな」
「しかし呪文使いを殺さず捕縛は面倒じゃのう」

かくして話はまとまり、扉を開けると同時にサーシャがタイム・ストップからウィッシュをグラス・ストライクにして副所長めがけて発動。一言も発する間もなくイリシリッチはガラスの像になった。