ネコぶんこ


2013年11月25日 [長年日記]

§ [DnD][4e][LnL] 『デザインの鋭さ――その1(Design Finesse—Part 1)』

マイク・ミアルス

TRPGデザイナを幸せな気分にさせたいなら、そのデザイナのゲームが美しいと言ってみよう。それは君がゲームに与えることができる最大の賞賛だ。それは「このゲームは世界的な陸上選手である上に天文学博士でセンスもいい」と言うことと似ている。美しいということは、君のゲームがただ遊べるというだけではなく、いい仕事をするということだ。

残念ながら、ゲームの構築で最初のうち、美しさはとらえどころのないものだ。それは料理に使う塩やニンニクのように、単純に加えたり減らすだけで味をつけられるというものではない。美しさは君のデザインへ向ける目、そしてゲームの中にいつどのようなルールを構築するか決断してきた仕事への取り組みで生まれる副産物だ。君は何かを取り除いたり加えたりして、さらなる複雑性によってゲームに美しさをもたらすことができるかもしれない。

美しさはとらえどころのない目標だが、決して達成不可能なものではない。私が美しさの探求をするときに好む道具は、鋭さだ。この方法論は努力、記録などのRPG関係の作業を最小限にする試みで、鋭いデザインには以下のような指針がある。

  • 問題の除去は可能な限りルールの除去で対応すべし。
  • 多くの問題を抱えたなら、いくつかの大きな変更で解決すべし。
  • それを必要としないプレイヤーは見なくてもいいルールをデザインすべし。
  • ゲームの流れとともにあれ、逆らうな。

除去による問題解決

私はこの問題解決法が好きだ。これは経験豊かなデザイナが紆余曲折を経てたどりつくところでもある。ゲームの一部が機能しないようなら、それを取り除こう。削除! 没! 『ドクター・フー』のダーレクはこれの第一人者だ。

これは必ずしも実践的な解決になるわけではないが、それが引き起こす問題を解決するためにルールを削除するのは協力な道具になりうる。これは君に思い込みへ疑念を抱かせ、RPGの本当に重要な部分へと無理にでも集中させる。

D&D Nextのデザインで、私たちはとても早いうちからこの方法論を利用してきた。“頑健”、“反応”、そして“意志”セーヴを記録して計算するのは、キャラクター作成の時間を増やし、あらゆるモンスターの解説に追加の欄を必要とさせる。セーヴィング・スローはゲームにとって明らかに重要だ――しかし、これまでそれを実装していた方法はあまりに多くの細かさや複雑さをゲームに加えていなかっただろうか?

この複雑さについて改めて考えてみれば疑問が浮かぶ――なぜ能力値をそのままセーヴィング・スローに使わないのか?この段階でゲームから専門用語は取り除かれ、テーブルでの速度も向上した。私たちはセーヴィング・スローはそのままに、その周辺にある多くの複雑なものを取り除いたのだ。

まな板に乗るかもしれないものすべてを台の上に準備してしまうと、君は効率性と使いやすさへとデザインの方向性を引きずられることになる。こうして君は複雑さはゲームの中でもDMとプレイヤーがもっとも多くのものを得られるところへ配分しなければならないものだと気づくだろう。

この配分を理解することは君が適切な部分をちょうどよく切り捨てるためにとても重要な役割を持っており、私たちは大規模なD&D Nextのプレイテストで多くのものを得てきた。私たちはどこを切り捨てればいいのか、どこをそぎ落とせばいいのか、どこを残せばいいのか、そしてどこを膨らませればいいのかについて、プレイテストの調査で得た洞察から見出してきた。

一発の弾丸、無数の標的

この標語は君のRPGシステム全体を君が強く制御し続けることを要求する。プレイテストのフィードバックを受け取ったなら、それぞれの要素に目を向けて一直線に働くのは簡単なことだ。材料はばらばらで、君はそれを固定したい。だが、一息ついて全体を見るのはよりよい方法だ。

送られてくるフィードバックがたまるのを待ち、そしてそこから動き始めよう。まず最初は、詳しく内容を見ないことだ。フィードバックを内容別に分類しよう。君はクラス、種族、そしてサブシステムごとに分類するかもしれない。問題がゲームの複数領域にまたがるなら、目印をつけてから両方の分野に分類しよう。

多くの問題点は単純に詳述が求められていることや、単純な編集で解消できる戦術上の間違い(呪文のダメージが多すぎる、モンスターの特殊攻撃をセーヴィング・スローできない)だ。だが全体像を見てみれば君が個別の問題だと思っていたものが、小さな問題が組み合わさってより重要なひとつの問題を示していることもあるだろう。

大問題――根本的なシステムの修正を必要とするもの――はこうやって複数の星の輝きによって見出される。このように、下位の問題すべてを個々に修正しようとすれば、根本的な問題はシステムのより深い場所へ身を隠すだけになる。

有利のシステムで非常事態が発生したのは、私たちがD&D Nextのもっとも初期のテストを行なっているときだった。以前の版で、大小さまざまな表にゲームのさまざまな局面で使える+1か-2の修正をまとめていた。有利(そしてその不吉な双子のきょうだい、不利)は覚えるのが簡単でロールの前後に適用しやすく、面倒な修正を丸呑みにしてしまえる十分な包括性を持っていた。

私たちはゲーム内のさまざまなペナルティとボーナスをどう実装するかについて多くの議論と意見――ひとつひとつの概念を単純に処理するか、より過激な角度から切り込むか――を重ねてきた。修正が引き起こした停滞を見れば、ゲームからそれらを除去することでより多くの問題を除去できるのは明らかだった。ゲームは速くなり、わずかな例外は記憶され、DMの記録すべきことは減り、そしてゲームはより初心者や複雑なルールをあまり好まないプレイヤーへ説明しやすいものとなった。

この事例もまた、あるルールがどうやって他のものと間接的に繋がっているかを示している。有利という発想の原点は第3版と第4版のアクション・ポイントだ。アクション・ポイントを使うことで、追加のアクションが得られる。君たちは攻撃を行ない、ミスしたからアクション・ポイントを消費してもう一度同じ攻撃を行なうこともあっただろう。アクション・ポイントはちょっとしたやり直しを可能にしてくれ、その概念はD&D Nextでは有利のシステムとしてボーナスの再ロールなどへと変化している。

この記事のその2で、マイクは簡略化と現実世界の法則を道しるべにするD&D Nextの鋭いデザインの探求について、機会攻撃を例に話を進めていく。

マイク・ミアルス

マイク・ミアルスはD&Dのリサーチ&デザイン・チームのシニア・マネージャだ。彼はレイヴンロフトのボードゲームやD&D RPGのサプリメント何冊かを手がけている。