ネコぶんこ


2011年11月08日 彼はこのとき、ロード・ブリティッシュとなったのだ。 編集

§ [DnD][4e][LnL] 『複雑さのカスタマイズ(Customized Complexity)』

伝説と伝承

モンテ・クック

その草創期、ダンジョンズ&ドラゴンズは非常にわずかなカスタマイズ性しか持っていなかった。君はステータスをロールし(しかもDMが意地悪だったらそれらを入れ替えることもできず)、クラスを選び、ダンジョンへと向かった。キャラクターのカスタマイズ性は君がどんな武器を装備するか選んだり(この選択肢すらクラスによって厳しく制限されていたが)、呪文――たったひとつの――を記憶することだった。

カスタマイズ性は版を重ねると飛躍的に増えていった。武器以外への習熟(non-weapon proficiencies)(訳註:現在の技能と似たシステム)、キット、技能、特技、パワー、テーマ……プレイヤーには多くが揃っており、多くのオプションで彼らのキャラクターを形作ることができる。君のファイターが以前は王宮の料理人だった? 大丈夫。君のウィザードは道場で毒を塗った手裏剣術の修業をしていた? それもできる。

これは常に君がプレイしたいキャラクターをプレイできるというお題目だ。しかしそれは素晴らしいお題目だ。

けれどもちょっと待ってほしい。本当にかつて君たちは望むキャラクターを作ることができなかったのだろうか? 技能、特技、その他さまざまな要素が無くても、君は――理論上は――何でも作ることができた。誰も君がかつて王宮の料理人だったことを止めだてはしない。そして毒を塗った手裏剣も? まあ、DMの承認は必要になるだろうが、それらは本当に君のウィザードが既に持っているダーツとまったく異なる物だろうか?

確かに、かつての版には多くの障害があった。第1版では、クレリックは決してバトルアクスを使えなかった。第2版では、ハーフリングはバードになれかった。他にも色々と。しかし、君のキャラクターをカスタマイズするシステムがわずかであったり無かったとしても演出ができないというわけではなく、ある種のプレイヤーにとっては完全な自由を意味していた。

カスタマイズ性は多くの人たちの場合何か意味がある選択と絡める必要がある。君はキャラクターがかつて王宮の料理人だったというだけではなく、その主張を担保する技能ボーナスを求めるだろう。D&Dが戦闘能力を定量化する方向なら、少なくともある程度、非戦闘時の能力も定量化しなければならない。これは適切な展望だ。

詳細に提供され複雑さが加えられた能力の中から君は意味があるようにキャラクターを作成する。キット、技能、特技、パワー、その他すべての新しいシステムを君は学ばなければならない。そしてキャラクターのカスタマイズは重要――おそらく一番重要なのは――1レベルの時で、君は始めようとしたらそれを学ばなければならない。突然、君はゲーム・システムが要求する新キャラクター作成に時間を取られる。

キャラクターをカスタマイズするための道具がたくさんあるのは、プレイヤーにとってよいことだ。過度の複雑さはプレイヤーにとってよくないことだ。ふたたび、私たちは二律背反にぶつかる。ゲーム・デザインで多く見られるように、それは幅広い分布を確認し、そこからそのゲームのために分布の上で丁度いい点を選ばなければならない。本当に分布があるか確認するのが難しい問題については、“そのゲームのために”という言葉がある。あるゲームにとって正しい事は、もうひとつにとって正しくない。では、何がD&Dにとって正しいのだろう?

しっかり、D&Dのすべてを確認しよう。複雑さがないところからカスタマイズに多くが割かれているところまで。異なる世代のD&Dプレイヤーは異なるものに慣れている。

分布の上で点を選んだらこう考えよう、全員ではなくこれで何人くらい、私たちはどれだけのグループを楽しませるのか? D&Dが君に道具を提供したなら、君はそれを利用するだろうか?

これはキャラクターを表現するためにたくさん存在する(そして長く存在している)サブシステムについて、それらはオプションであるということを示唆、あるいは結論づけている。これはキャラクターをカスタマイズするための技能や特技などすべての要素を含んでいる。これは本当に、急進的な考えだ。ゲームのプレイに大きな影響を及ぼすが、今の私はキャラクターの作成と表現に集中したい。これらを丸裸に――キャラクター作成の要点を見れば――すれば君には基本的な部分として能力値、種族、クラス、ヒット・ポイント、アーマー・クラス/防御値、そして装備が残される。面白いことに、これはずいぶんと第1版やOD&Dのように見える。他のものは要望どおり階層化することができる。また、興味深い思考実験として、君は(キットや習熟のような)いくつかのオプションを階層化すれば第2版のキャラクターのように見えるものを得られる。異なる階層化(技能と特技)をすれば第3版のキャラクターがいる。他の組み合わせ(技能、特技、そしてパワー)で君は第4版のキャラクターを得られるし、他にもある。

今のこれは極端な単純化で、異なる版では種族もクラスもそれぞれ違う場所から始まるのだが、これはそれを観察するために面白い視座だ。ゲームが持つほとんど変わらなかったいくつかの不可欠な糸を中心に、焦点を合わせる。その中心で、D&DのキャラクターはD&Dのキャラクターたりえ、こうしてその中心こそゲームでもっとも重要な部分だと明確になる。


2012年11月08日 生身で生きている存在を、ブルジョワ的ユダヤ-キリスト教的倫理観をもつアニメ・キャラクターへと、頭の中で変換してしまうこと。 編集

§ [Ludus] 次はタブレットかも

iPhone 5買ったはいいけど次はタブレット端末に目移りする今日この頃ですぅ。

それというのも全員スマートフォンを装備できる環境でRPGをプレイするときはハンドアウトやイラストなど各種資料をDropboxなどで共有して各自の端末でチェックしていることが多いけど、イラストなどぱっと見ればいいものはテーブルに出せたほうが手っ取り早いのでやはりタブレットもあったほうが便利ぽい気がしたからですぅ。

しかしこのあたりは割といいわけでほしいからほしいというか手に入れたらどうでもよくなる(でも人にはあげない)ので活用するかはわからないのがアレだけど、何かほしいと思う気持ちなんてだいたいそんなものだとあきらめるですぅ。


2013年11月08日 編集

§ [Promiscuus] 歩哨観測用人類

今日は蟲や小動物を誘う音やにおいを出す器官が発達し、口を開けていればそこに獲物が飛び込んでくるからそれを食べて生きながら数世紀単位で棒立ちのまま何かの観測や警戒を行なう歩哨観測用に調整された人類のことをぼんやりと考えていたですぅ。


2016年11月08日 編集

§ [DnD][5e] 『バーバリアンのPRIMAL PATH(RULES ANSWERS AND ERRATA: OCTOBER 2016)』

Unearthed Arcana

マイク・ミアルスとジェレミー・クロフォード――2016年11月07日

今日のUnearthed Arcanaで、バーバリアンは新たなPrimal Pathのオプションを受け取る。しかし、これがすべてではない。

君にプレイテスト、議論、そして考えてもらうためのD&Dコンテンツを私たちはたくさん準備した。事実、私たちは何ヶ月かにわたって月に何度もUnearthed Arcanaを発表するための充分な原稿を持っている。月曜日には原稿を見つけ、君がここで見たものについての調査に答える準備をしてほしい。私たちは君が愛しているものを取り上げては純化し、私たちは君が好きではなかったものを取り上げ、それらを捨てるか再設計する。どちらの方法にしても、君からの反響は非常に重要だ。

私たちの双方――マイク・ミアルスとジェレミー・クロフォード――は近い未来のためのUnearthed Arcanaに取り組み、Sage Adviceのコラムはしばらく休ませてもらう。一方、ジェレミーは公式なルールへの回答をツイッターで提供し続ける(@JeremyECrawford)。

Unearthed Arcanaの内容は、プレイテストと君の想像力をひらめかせるために発表される。これらのゲーム・メカニクスは草案の形式で、君のキャンペーンで使えはするが、デザインを繰り返して完全に調節されたものではない。これらはゲームの公式な一部ではない。これらの理由から、このコラムの内容はD&Dアドヴェンチャラーズ・リーグのイベントでは非合法となる。

UNEARTHED ARCANA: BARBARIAN PRIMAL PATHS

今回から月に何度か発表されることになったですぅ。内容はバーバリアンのサブクラスですぅ。


2021年11月08日 編集

§ [Ludus][5e] 5e Zine vol.03のお知らせ

7月に出してもう何ヶ月目だと言われそうだけど、今年も5e Zineを出してたのでこちらでも告知ですぅ。

今回はマジック:ザ・ギャザリングで『フォーゴトン・レルム探訪』も出たことだし、せっかくだからダンジョンズ&ドラゴンズとマジック、互いから互いを見て、D&Dライフをより豊かにする2大特集を組んでいるですぅ。

緊急特集・フォーゴトン・レルムとは何なのか

2つのゲームと1つの世界
マジックとD&Dの舞台になったフォーゴトン・レルムの簡単な解説。
タオのフォーゴトン・レルム案内
フォーゴトン・レルムの歴史から名所までを解説。
フォーゴトン・レルムブックガイド
ゲームだけではなく、小説やコミックでもフォーゴトン・レルムは展開する。
D&D買い物ガイド
これを機にD&Dをやってみようかと思った人向けの買い物ガイド2021年版。
ドリッズト・ドゥアーデンを勝手に第5版でデータ化しちゃおう。
有名キャラクターをデータ化して遊んでみるコーナー。

二大特集・マジック:ザ・ギャザリングへの誘い

マジックとD&Dの架け橋『プレーンシフト』
マジックの世界をD&Dで遊ぶためのサプリメントが存在する。
多元宇宙生体分類学
これまでにD&Dで使えるようになったマジックの種族や、既存の種族をマジックのものとして読み替えてみる記事。
レジェンドたちは何処から
Legendsのレジェンドたちはどうやって生まれたか。
マジック買い物ガイド
フォーゴトン・レルム探訪でどんなアイテムが出ているかの紹介とガイド。
もっとD&Dでマジック
マジックのカードをD&Dのデータにしてみる遊び。

もちろん、他の記事も盛りだくさんですぅ。

『フォーゴトン・レルム探訪』カード解説
『フォーゴトン・レルム探訪』の全カードの一言解説。D&D絡みの話が多め。
5e Zine町内会(仮)
読者コーナー。
D&Dにフォーマットってあるの?
D&Dでどれだけルールを使うのかという話。
第4版ダウンロードシナリオ『火王の島』を第5版でやろう!
公式サイトからダウンロードできるシナリオをバージョン変換する記事。
汎用アドベンチャーや他セッテイングのアドベンチャーをレルムっぽく演出しよう!
背景設定や演出に使うとフォーゴトン・レルムっぽくなる要素解説。
カードで情景描写
TCGのカードはTRPGの演出に使える。
セッションその前に
実際にセッションに入る前にやった方がいいこと。

そしてさらにアドベンチャー(シナリオ)も収録してるですぅ。

フォーゴトン・レルムシナリオ「女王の泉」
フォーゴトン・レルムの1レベル向けアドベンチャー。
フォーゴトン・レルムシナリオ「悪の教導者」
フォーゴトン・レルムの1レベル向けアドベンチャー。有名NPCもカメオ出演。
ラヴニカシナリオ「秘密の輸送任務」
ラヴニカの1レベル向けアドベンチャー。様々なギルドが活動する情景が描かれる。

今回もイエローサブマリンさんに1650円で委託をしていますぅ。通販もあるので、まだの方はぜひよろしくお願いしますぅ。

§ [Ludus][5e] 『Little Note of Poor Draconic / 竜語の覚え書き

Fizban's Treasury of Dragons』も出たことだし、そっちであまり触れられていなかった(残念)D&Dの竜語についての小品をDungeon Masters Guildでリリースしたですぅ。

§ [Ludus] うなぎむらサイト更新

というわけで色々更新したですぅ。九州コミティアへの原稿はまったくもってだめですぅ。


2025年11月08日 編集

§ [CoC] シナリオ:怪物物件

今回も新クトゥルフ神話TRPGの小シナリオですぅ。クラシック版でもプレイ可能ですぅ。

このシナリオを使ったリプレイの公開やプレイ配信などは好きに行なっていただいて構わないですぅ。その時はご一報いただけると嬉しいですぅ。

キーパー向け情報

某地方都市にある築50年以上の古いアパート、戸村コーポ二号館。そこは世界の裏側で生きる闇の者たちに家を斡旋するブローカーが便利に使っていた物件でもある。

アパートの所有者である戸村不動産は、このおんぼろアパートを再開発することにしたが、幾人かの入居者と連絡が取れなくなってしまっている。戸村不動産は戸村重樹とむらしげきと妻の夫婦経営であるため、日々訪れる客の対応で手一杯である。そのため、探索者たちは戸村コーポ二号館の連絡のつかない住民たちとの交渉を任せられる。

しかし、そこに住んでいるのは旧支配者の従者や食屍鬼、魔術師たち。一筋縄ではいかない住民たちを戸別訪問し、移転の交渉をまとめたり“いない”ことを確かめたりしていけばシナリオは終了である。

NPC紹介

戸村重樹とむらしげき:53歳、某地方都市にある戸村不動産の社長。所有する古いアパートを取り壊してマンションにする予定があるが、特定の住人はいくら連絡をしても接触できないため、直接交渉してくれる人を探している。戸村明日香とむらあすかのおじでもあるため、探索者たちは明日香から小遣い稼ぎを持ちかけられる導入にしてもよい。

小野佐弥子おのさやこ:75歳、戸村コーポ二号館の102号室住人。実は数十年前にグラーキの従者となっていたために昼間に出歩くことが難しい体になっていたが、数ヶ月前にカーテンを開けたまま寝てしまい、日光を浴びて消滅した。シナリオ開始時に既に故人。

リチャード・アプトン:30歳?、戸村コーポ二号館の105号室住人。本名はリチャード・アプトン・ピックマン。H・P・ラヴクラフトの小説『ピックマンのモデル』で語られた画家で、食屍鬼。たまに創作意欲を満たすために地球を訪れる癖があり、画家として活動している。人間に対しては危害を加えられない限り理性的な対応をする。

蓮台寺明久れんだいじあきひさ:26歳?、戸村コーポ二号館の202号室住人。探偵を名乗っていたが、数ヶ月前に夜逃げ同然の失踪を遂げた。グラーキの従者である小野佐弥子を使役しており、自らの部屋にもグラーキの黙示録の複製を書き写したノートを置き忘れていたため、魔術師である可能性が高い。シナリオ開始時に既に失踪者。

田中宏たなかひろし:25歳、戸村コーポ二号館の203号室住人。会社員。妻の正子とうまくいっておらず、しばしば隣近所まで聞こえるような夫婦喧嘩をしていた。それをうるさがった蓮台寺明久によってグラーキの従者へと変成させられた。

田中正子たなかまさこ:23歳、戸村コーポ二号館の203号室住人。パート。夫の宏とうまくいっておらず、しばしば隣近所まで聞こえるような夫婦喧嘩をしていた。それをうるさがった蓮台寺明久によってグラーキの従者へと変成させられた。

シナリオの導入

探索者たちは戸村不動産に呼ばれ、戸村重樹から話をされる。彼は「うちの物件に立て替えを予定している戸村コーポ二号館というのがあるんだが、4部屋の住人と連絡が取れないんだ。会社とはいえ夫婦経営なので手が回らないので、取り壊しと退去のことを言いに行ってくれないか」と話す。探索者たちが了承するなら住人に書いたメモと鍵束を渡し「暴力団の立ち退き屋みたいなことはしないでくれ。あくまで穏便に、悪くても住人がいて連絡がつくことが確認できればそれでいい」と彼は念押しをする。

1.戸村コーポ二号館

戸村コーポ二号館は住宅地の外れにある、木造2階建てで外側に各部屋を繋ぐコンクリートの通路があり、錆まみれの階段で2階へ上るようになっていて、これまた錆塗れの鉄製の通路で各部屋が繋がれている。1階2階共に5部屋ある、もう築50何年の物件だ。

建物の近くにはマンションが何棟か建っており、その狭間にあるせいか余計古々しく、薄暗さを感じる。

連絡が取れない部屋は102号室、105号室、202号室、203号室の4つである。

メモを見るなら、102号室は小野佐弥子おのさやこ(75歳)、105号室はリチャード・アプトン(30歳・アメリカ人)、202号室は蓮台寺明久れんだいじあきひさ(26歳)、203号室は田中宏たなかひろし(25歳)・田中正子たなかまさこ(23歳)と書かれている。

探索者たちは好きな順番で部屋を回ることができる。

2.102号室

小野佐弥子の部屋である。ところどころが錆びた金属のドアに“小野”と書かれたネームプレートがあり、ポストの部分には電気、ガス、水道などの請求書が数ヶ月分挟まっている。

外に回ってみるなら、カーテンは開け放されたままで、家具は少ないがよく整理された部屋と、敷かれたままの布団が見える。

リチャードに話を聞けるなら、深夜にゴミ出しをする姿などを何度か見たが、小柄な老女だったと話す。

中に入るなら、入ってすぐのところに台所兼用の4畳半ほどのスペースがあり、風呂場へのドアと、奥の部屋への襖がある。以下、このアパートはすべてこの作りである。

襖は開け放たれており、その奥は6畳ほどの畳部屋で、押し入れがある。家具はホームセンターで買えるようなカラーボックスや棚がいくつかあり、綺麗にまとめられている。窓際には布団が敷かれており、その布団には緑色のカビのような、染みのようなものが人型についている。この染みを見て〈アイデア〉ロールに成功すると、ここに何かが“いた”ことに確信を持ち、0/1D3の正気度ポイントを喪失する。

〈クトゥルフ神話〉に成功すれば、グラーキの従者というゾンビのような怪物は、日の光に当たり続けると緑色に変色しながら死んでいくことを思い出せる。

キーパー用情報

この部屋に住んでいた小野佐弥子は生まれてかなり時間の経っていたグラーキの従者である。彼女は202号室の住人で魔道士の蓮台寺明久によって創造され、従僕として使われていた。しかし数ヶ月前のある日、彼女はカーテンを閉め忘れたまま寝て、太陽光線にさらされて消滅してしまったのだ。これが彼女が呪われた不死を厭うてのことかどうか、知る者はもはやいない。

3.105号室

リチャード・アプトンの部屋である。ところどころ錆びたドアにはネームプレートも何もなく、まるで空き部屋のようにそっけない。

外から様子をうかがっても、窓には遮光カーテンがかかっていて中の様子を見ることはできない。

呼び鈴を鳴らしても住人は出てこないが、電気メーターを見ればそれが回転しているので電気が使われていることがわかる。これはプレイヤーが提案しなくとも、〈アイデア〉ロールに成功すれば気づくことができる。

〈聞き耳〉に成功しても、中でゴソゴソと人間大の存在が動いていることがわかる。

中に入ると、シンナーのような臭いがする。〈絵画〉に成功すればこれは油絵で使われるテレピン油の臭いであることがわかる。

台所に繋がる襖は開け放たれており、続きになって使われている部屋の数ヶ所にはイーゼルと書きかけのカンバスがあり、壁にもいくつかのカンバスが立てかけられている。それらはすべて人が人を喰う、カニバリズムがモチーフとなった冒涜的なものだ。ハードの〈絵画〉に成功したなら、1920年代のアメリカに、カニバリズムの絵ばかりを描いたリチャード・アプトン・ピックマンという画家がいたこと、彼は謎の失踪を遂げたことを思い出せる。

部屋の主であるリチャードは部屋に入ってきた探索者たちには背中を向ける形で、猫背になって一心不乱にカンバスに絵筆を走らせている。探索者たちが部屋で動き回っていると「It's noisy」と早口で言いつつ振り向く。そこにいるのは顔に犬のような口吻を持ち、鋭いかぎ爪を持つ怪物のような男だ。その体からは凄まじい悪臭がする。彼は食屍鬼だ。その姿を見た探索者たちは、0/1D6の正気度ポイントを失う。

突然の来客に気づいた彼は慌てて顔の下半分を覆う医療用のマスクをつけて、「失礼。勝手に入られると困るのですが」と早口で、しかし流暢な日本語で話す。探索者たちが建物の取り壊しと退去の件を話すなら、「見ての通りここには電話も無いし、スマホも持っていない。仕事に集中していると呼び鈴も聞こえなくなるたちでね。感謝する。できるだけ安く住める新しい物件を手配して欲しいと社長に伝えてくれ」と、いたって友好的に応答する。

探索者たちが彼の外見や素性来歴について追及するなら、ハードの〈威圧〉〈言いくるめ〉〈説得〉〈魅惑〉に成功したなら、「私を見ての通りここは古いしその筋のブローカーが異形の者、外法の者が、かりそめの宿として都合よく使う建物なのだ。残りの連中もおおかた同類だろう」と事情を説明する。イクストリームで成功している場合、「他の連中の説得に不安があるなら私も同行しよう」と探索者たちが求めれば彼も同行することに承諾する。結果がレギュラー以下だった場合、「私は人体改造フェチなのだ。風呂も入らん」などと話をはぐらかされるのみである。

探索者たちが彼を攻撃するようなことがあった場合、建物の外へ逃げて路地裏や下水道に入って撒こうとする。

キーパー用情報

リチャードはラヴクラフトの小説『ピックマンのモデル』で失踪したリチャード・アプトン・ピックマンその人である。彼はドリームランドからたまに外界へ出て、創作活動を行なっている。いくつかの偽名で画商に絵を売っているので金銭的には不自由の無い生活をしているが、身分を偽装するのにも金がかかり、もとより人嫌いのため目立たない場末に住むのを好んでいる。

4.202号室

蓮台寺明久の部屋である。錆のかかったドアには“蓮台寺明久”と書かれた名刺がガムテープで貼ってある。

外に回ってみるなら、カーテンが閉められているため中の様子はうかがえないし、呼び鈴を鳴らしても人は出てこない。

リチャードに話を聞けるなら、蓮台寺は探偵を自称していたと話す。

鍵を開けて入ろうにも、ドアの鍵と合わない。鍵穴の部分だけ新しいので、勝手に変えられているとわかる。〈鍵開け〉に成功すれば開けることができるし、体当たりを試みる者のSTRが合計80なら、ドアを壊して中に踏み込むことができる。

部屋に入ると、台所には食べ終わったインスタント食品やコンビニ弁当を入れたゴミ袋にハエがたかり、畳部屋の方にも布団が敷かれ乱れたままの金属パイプ製ベッドやキャビネット、事務用の小型デスクなどがそのまま放置されている生活痕がある。しかし、部屋の中には誰もおらず、夜逃げでもしたかのようだ。

デスクの上には赤と青の大学ノートが2冊ある。赤のノートは彼の日誌で、小野佐弥子を先に入居させて安全を確認できたので自分も入居したこと、小野が消えてしまったこと、“トゲ”という何かをふたたび手に入れたこと、隣の夫婦の仲が悪くケンカの怒号で研究に身が入らないこと、衝動的に“トゲ”を隣の夫婦に使ってしまったことが書かれている。

青のノートには英語と日本語が併記される形で理解しがたい内容が書かれている。流し読むとグラーキなる存在を崇拝する宗教団体の書いた聖典の逐語訳だとだけわかる。

キャビネットの中には超常現象のことを扱った本や雑誌が数冊入っているが、まだ色々なものが入っていた痕跡がある。

これ以上探索しても何もない。どうやら蓮台寺という人物は失踪しているようだ。

蓮台寺明久のノート

英語と日本語の併記、蓮台寺明久著、2020年頃

グラーキの黙示録の断片から作られたカルトの聖典を、さらに蓮台寺明久が訳したもの。カルトは現代に興ったもののため、本来のグラーキの黙示録から失われたものはあまりにも多い。

正気度喪失:1D6

〈クトゥルフ神話〉:+2%/+4%

神話レーティング:5

研究期間:2週間

呪文:《神格との接触/グラーキ》

キーパー用情報

探偵を名乗っていた蓮台寺明久は、その実現代に生きる魔術師だったようだ。彼はグラーキの黙示録の断片を見つけて独自に翻訳してグラーキのとげを入手し、それを衝動的に隣の夫婦に使い、露見を恐れて夜逃げした……というのが大体の物語であろう。いずれにせよ、蓮台寺の物語は別のシナリオで語られるかもしれないが、今回の彼の役割は夜逃げした怪しい探偵である。

5.203号室

田中宏と田中正子の夫婦の部屋である。ところどころが錆びたドアにあるネームプレートには“田中”と書かれている。ポストには電気代やガス代の請求書が3ヶ月分挟まれている。

外に回ってみるなら、薄いカーテンの向こうにふたつの人影が動いているのがわかる。どうやら、夫婦は在宅中のようだ。〈アイデア〉ロールに成功すれば、その動きには何かをやろうとする目的のような生気がないことがわかる。

リチャードに話を聞けるなら、夫婦仲が険悪だったようでたびたび怒号が飛び交っていて迷惑していたが、数ヶ月前にぱったりと止んだと話す。

部屋に入ると、台所部分は夫婦喧嘩の名残なのか割れたままの食器がいくつか放置されたままになっている。奥の部屋に続く襖は閉じられたままだ。

襖を開けると、使い古された家具がある部屋の中を体のあちこちに青黒い跡を持ち、肌がしなびた普段着の男と女がぎくしゃく動き回っている。この異形の人体を見た探索者たちは1/1D8ポイントの正気度を失う。彼らは探索者たちを見るとぐるりとそちら側を向き、「ニンゲン……キョウミブカイ……」、「……フトドキモノ……オワセル……」などとつぶやきながら襲いかかってくる。

彼らは蓮台寺明久によってグラーキのとげに刺され、グラーキの従者と化した田中夫婦である。彼らはグラーキとの交信により蓮台寺を追う目的を与えられてはいるものの、手段がわからないためにただ部屋の中をうろついていたのである。しかし、探索者たちが部屋に入ってきたことで事情は変わる。グラーキは探索者たちが有用な従者たりうる存在と認識し、この使えない夫婦で捕獲しようとしているのだ。

キャラクターたちが田中夫妻を倒すと、彼らはぐずぐずと緑色のカビや染みのように畳に沈んでいく。そしてどこかからゴボゴボと水が泡を立てるような『見タゾ』と“人の声のような音”が聞こえてくる。この“音”を聞いた探索者たちは1/1D6の正気度ポイントを失う。

キーパー用情報

田中夫妻は闇の世界の連中とは関係なく、家賃の安いこの物件に入居した哀れな犠牲者である。彼らは夫婦仲が悪くて外にまで声が響くような夫婦喧嘩をしていたため、隣の部屋の蓮台寺明久からグラーキのとげを刺され、グラーキの従者へと変成させられたのだ。それ以後はグラーキと感覚を共有する操り人形となっていたが、グラーキはこの夫婦をあまり使えない存在と思っているのか半ば放置していた。

結末

探索者たちがすべての部屋を回り終えて問題を解決すれば、ほとんどの部屋の借主は失踪ということになり、しばらくは警察が捜査をする。やがてそれも忘れられ、しばらくすれば再開発が始まるだろう。

リチャードが無事なら彼はまた別の建物に引っ越すことになる。

本作は、「株式会社アークライト」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』シリーズの二次創作物です。

Call of Cthulhu is copyright ©1981, 2015, 2019 by Chaosium Inc. ;all rights reserved. Arranged by Arclight Inc. Call of Cthulhu is a registered trademark of Chaosium Inc. PUBLISHED BY KADOKAWA CORPORATION 「クトゥルフ神話TRPG」「新クトゥルフ神話TRPG」