2013年06月11日 この変化する設定世界というのは、うまくいった場合は非常に魅力的ではあるが、これを継続するのはゲームマスターに多大な負担をかけることになる。 [長年日記]
§ [DnD][4e][DSH] 『ダンジョン・サバイバル・ハンドブック』
『ダンジョン・サバイバル・ハンドブック』はダンジョン探検を大きなテーマに、そこで役立つ先人の知恵やデータを収録したサプリメントで、プレイヤとDM、両方が使えるような内容になってますぅ。
ダンジョン探検家たち
まず第1章ではPC用のデータが紹介されていますぅ。今回はクラスごとに大量のパワーや新種族専用特技以外の特技は紹介されておらず、これまでのサプリメントよりもより“物語ること”に比重が置かれた構成になってますぅ。
テーマ
『ダンジョン・サバイバル・ハンドブック』収録のテーマは、アンダーダークの社会から追放されたアンダーダーク・アウトキャスト、アンダーダークで勢力間の複雑な交渉を請け負うアンダーダーク・エンヴォイ、イリシッドなどの精神支配から逃れた奴隷のスケープド・スロール、地上よりダンジョンにいる時間のほうが長いような生活を送るディープ・デルヴァー、罠を駆使するトラップスミス、財宝を探すことにとりつかれたトレジャー・ハンター、復讐者としてダンジョンへ挑むブラッドスウォーンの7種類ですぅ。
今回からはテーマの解説にはプレイするにあたっての指針が最初にあり、彼らの生き様がどんなものであるか、そして設定のサンプルやコラムなど、どういう設定でどうロールプレイをすればいいかがよりわかりやすくなっているですぅ。
種族
今回の追加種族はどれもダンジョンやアンダーダークをねぐらとしているゴブリン(【敏】+2、【判】あるいは【魅】+2)、コボルド(【耐】+2、【敏】あるいは【魅】+2)、ディープ・ノームことスヴァーフネブリン(【判】+2、【筋】あるいは【耐】+2)の3種族で、それぞれの種族紹介に加え、種族特技と10レベルまでの種族汎用パワーが収録された構成ですぅ。
いずれもPC種族としては馴染みのない種族のせいか、その文化や社会についてはかなり詳しいところが書かれているほか、冒険に出るための動機についてもきちんと例示されているのは好感が持てるですぅ。
ただ、これまでコボルドが持っていた種族パワーのシフティは強すぎるせいかPC種族化にあたって差し替えられたため、コボルドを愛する人は少し残念な気持ちになるかもしれないですぅ。
ダンジョンがテーマのパワー
この項目ではクラスのパワーと技能パワーが紹介されているけど、クラス別や技能別の紹介ではなく、組織や経験などダンジョンにまつわるテーマに根ざしたものになっているのが特徴ですぅ。
これらはたとえば、“ドラウの宝物庫より(From the Vault of the Drow)”で紹介されているパワーはドラウの支配階級やロルス信者、あるいはうち捨てられたドラウの遺跡で発見できるものとして紹介され、その中にデーモンとの契約によってダメージ・ロールを再ロールする〈魔法学〉パワーのデモニック・バーゲンがあるというふうに、パワーを由来やロールプレイの指針がより詳細になっているですぅ。
ここで紹介されるクラスのパワーはウォーロードが1つ、ウォーロックが1つ、クレリックが1つ、パラディンが1つ、ファイターが1つ、レンジャーが2つ、ローグが3つ、インヴォーカーが1つ、ウォーデンが2つ、シャーマンが1つ、ソーサラーが1つ、ドルイドが1つ、バードが1つ、バーバリアンが1つ、サイオンが1つ、シーカーが1つ、バトルマインドが1つ、ルーンプリーストが1つ、アーティフィサーが1つ、アサシンが1つですぅ。
技能パワーの内訳は〈威圧〉が1つ、〈隠密〉が2つ、〈運動〉が1つ、〈軽業〉が2つ、〈看破〉が4つ、〈持久力〉が1つ、〈事情通〉が1つ〈治療〉が1つ、〈ダンジョン探検〉が4つ、〈知覚〉が1つ、〈魔法学〉が3つですぅ。
生き残るために
この第2章では、先人の知恵を交えながら登攀や暗闇への対策から、隠し扉を見つける方法や安全確保の方法、さまざまな危険への対策、儀式のうまい使い方、地勢ごとの傾向と対策、ダンジョンの住人など生き残るための知恵が具体的データも交えて紹介されているですぅ。
この章は障害を克服するための想定手段や、シナリオを自作するときにダンジョンの地勢を利用した特徴づけや危険要因の配置など、DMから見てもとても役立つものになってますぅ。さらに、状況を演出するために有用なDM用のコラムにも注目ですぅ。
ダンジョンをプレイするさいの“べからず集”コラムではすべてのマスを10フィート棒でつつき、扉を開けるのを躊躇しつづけるようなプレイ、大量の動物に先行させて罠を踏み抜かせる安全確保方法などが挙げられていて、思わず懐かしい気持ちになれるですぅ。
レイヴンロフト城やインヴァネスの幽霊塔など旧版からのシナリオでもおなじみの悪名高いダンジョンについては、それぞれに数ページが割かれて設定や初出が解説されているので、自分なりにシナリオを作るときも役立ちそうですぅ。
章の最後にはダンジョン探検の道具について項目が設けられており、ランタンや陽光棒をとりつけられる鉱夫のヘルメット、壁や扉に小さな穴を開けるためのドリルなどから、パープル・ワームの体液から精製した石を融かすストーン・イーターや水中での呼吸を助けてくれるロングブレスなどの錬金術アイテムまでが紹介されてますぅ。
ダンジョンのあるじ
第3章は主にDM向けの章で、ダンジョンやアンダーダークのシナリオをどう作るか、冒険にどう物語性を持たせるかをこのサプリメントで紹介されたテーマなどから例示しているですぅ。
冒険への導入は、どこそこに何があると情報が開示されたうえでそこを目指す告知型、あるキャラクタの背景を中心に置いて手がかりをちりばめる暗示型、キャラクタの背景を利用しておいて実は……とする誤誘導型、利害が必ずしも一致しない新たな登場人物とやむをえず共闘する新参者型、自ら危険な状況へ飛び込んでいく挑戦型の分類を示し、それぞれのテーマごとにいくつかが例示されていますぅ。
探検と選択、謎とパズルについても、繰り返し同じ象徴を演出することでそこにいる存在を暗示させたり、地図には誰も行ったことのない空白地を設定してPCを最初の探検者にすること、パズルにはリセット機能を仕込んでおいたり、戦闘など別の解決法を選べるようにすることなど、経験に基づく示唆に富んだ助言が多く載っているですぅ。
アンダーダークでのシナリオをどう作るかも、雰囲気の出し方や物語の組み立て方、それらしい障害や地形、技能チャレンジの例などが詳しく説明されているですぅ。
ダンジョンの創造者についての項目は前の章にあったダンジョンの地勢とかぶるところはあるけど、ダンジョンの傾向を作り手別に分析しているもので、シナリオの雰囲気を統一する助けになりますぅ。
そして、このサプリメントでは特別な報酬として『モルデンカイネンの魔法大百貨』での物語アイテムにも似た、通常のパワーや魔法のアイテムよりはるかに強大な効果を持つ“力のスクロール”が紹介されているですぅ。
これらは使いきりだけど、たとえばマス・ヒールなら“10マス以内の味方全員のヒット・ポイントと回復力を最大値まで回復させ、すべての病気を治療し、その遭遇中は[畏怖]への完全耐性と重傷値に等しい一時的ヒット・ポイントを得る。”、ウィッシュなら“能力値ひとつを永続的に+4する、アンコモンかレアの魔法のアイテムをひとつ得る、プライモーディアルの真名や存在についての知識が失われたアーティファクトの情報を得るなどの代償に、作り手の望みを叶えなければ悲惨な結果が待つ。”など、ゲームが一気に派手になる爆弾としてふさわしいものになってますぅ。
章の最後では、ダンジョンにふさわしい同行キャラクターとしてはみ出し者コボルドのミーポやドワーフから育てられたアンバー・ハルクのウルトックなどが、仲間にする方法も含めて紹介されているですぅ。
補遺
このサプリメントでは補遺として、“君だけのダンジョンを作ろう”と題されたダンジョン作成を流れとして追った作業方法と、それと組み合わせても使えるランダム・ダンジョンを作成するための表がついてますぅ。
ただし、ランダム・ダンジョンの作成は戦闘遭遇まではサポートしていないので、どういう雰囲気で何者が作ったダンジョンなのかを決定したら、あとは自作の遭遇を入れるなり既存の遭遇を持ってくる必要がありますぅ。
まとめ
“どうやってダンジョンをプレイするか”の一点にテーマを絞り、プレイヤとDMの両方にこれまでの積み重ねでつちかってきた知恵を開示するサプリメントというのが第一印象だったですぅ。
それはたとえば休憩を取るときにアラームでもしもの事態に備えるなど、これまでそういうプレイをしてきた人にとっては当たり前、当然のことではあるですぅ。ただ、これを書いたスタッフはもはや誰もがそういう共通認識を持っていないことを諒解したうえで、押しつけがましくなく“こういうプレイもあるよ”と提示しているので好感が持てるですぅ。
紙幅のせいかDM用の罠データなどがないのは残念だったけど、ダンジョンの地勢や創造者の項目を読んでいればそのあたりはありものを拾って演出を変更すればいいのだと思わせてくれるですぅ。