ネコぶんこ


2012年05月29日 この物語の教訓は圧制が文明の崩壊をもたらすということである。 [長年日記]

§ [Liber] 伊藤博明ルネサンスの神秘思想

これはギリシアやエジプトの神々、古代の哲学や信仰、占星術やカバラといった異教の存在がルネサンス期にどうキリスト教と習合して理論的な裏づけを得ていったのかを、歴史の流れを経糸に、個別の事例を緯糸にし、二方向から見ている本ですぅ。

主に十四~十六世紀のイタリア半島(フィレンツェ)を中心に話が進むけど、ルネサンスがどういうものだったのか、その時代に何が起こっていたのかという基礎的な部分については説明を省いているところも多いので、中学校から高校の教科書くらいの知識を持っていたほうがスムーズに読めると思うですぅ。

第一部『〈神々の再生〉の歴史』は、前述の経糸である歴史の流れをフィレンツェに関わりの深いフランチェスコ・ペトラルカ、マルシリオ・フィチーノ、ピーコ・デッラ・ミランドラという三人の思想家を中心に論じてますぅ。

これは中世後期の主流だったスコラ学へ対抗するように発生した人文主義の歴史で、異教の神や詩から、それらを語った詩人や哲学者が霊感として受け取っていたキリスト教的真理を読み解こうとした寓意解釈の歴史である、という筋立てでボッティチェリやラファエロの絵画に込められた寓意の例示なども行いながら話が進んでいるですぅ。

第二部『〈神々の再生〉の諸相』では、緯糸であるキリスト教と混交した異教の存在を個別に取り上げながら、それらを当時の人々はどうキリスト教に適合するよう解釈したのか、そしてそれはどのような影響をもたらしたのかという話をしているですぅ。

ここではヘルメス・トリスメギストスやヒエログリフに代表されるエジプト神話、ゾロアスターやオルフェウス、ピュタゴラスといった古代の神学者たち、ギリシア神話とも関係が深い占星術、イベリア半島を追放されたユダヤ人によりもたらされた新しい秘儀のカバラと、ルネサンスの主だった神秘思想が概説されていますぅ。

そういうわけでこの本の位置づけを考えると、ルネサンスがどんな思想的バックボーンを持っていたのか、どうやってキリスト教は異教と折り合いをつけたのか、魔術や錬金術、占星術、カバラのような神秘思想はどういうところから出てきたのかという一例を見たい人にとって、かなり有用な概説書になっていると感じたですぅ。

巻末の年表と出典一覧、参考文献の存在もよくまとまっているのも、この本を概説書として推す理由のひとつですぅ。特に参考文献については章ごとに区切ってある上、文庫化にあたって日本語で読める本を優先して再編集されているので、ここから次に繋げやすい良書になっているですぅ。