2014年10月28日 [長年日記]
§ [TRR][Oni] リプレイ『鬼の話~エンディングフェイズ:シーン14』
エンディングフェイズ:シーン14・毘沙門組の最期(貞親)
GM:中山が町奉行に狼藉を働いたのは確かなので、そのことを指摘すれば目付は中山の屋敷を査察します。
貞親:まあ、そこはやってもらいましょう。証拠が揃ってた方が蹴りは着けやすいですし。
GM:毘沙門組から盗まれた物品が中山の屋敷から押収され、彼の権力失墜はほぼ確定。頼みにしていた幕閣からの擁護もなく、そのまま身分は剥奪され裁きを待つ身です。町奉行としては、数年前の詮議からやり直しして渡辺充の無実を証明することも可能です。 貞親:ふむ。せっかくなのでそれもやっておきましょう。無実の罪は証明しておかんとならん。
銀次郎:それは是非いってあげていただきたい。
貞親:「我々が剥奪した尊厳は我々によってしか取り戻すことができないのだ」
蘭学奉行と目付による捜査が進む中、中山が裁きの場に引きずり出されたとの報を聞いた老中某は書状を握りつぶし、それを火鉢にくべていた。
「ええい……役に立たぬ……っ。次の手駒を探さねば」
随分と目をかけ、便宜も図ってやった。老中とはいえ権力を振りかざすのはただではないのだ。
「誰か、誰かある!」
応えはない。野卑な声の反響もそのうちやみ、水を打ったような静寂が訪れ、その気持ち悪いぐらい静かな屋敷の中をすり足で歩く音が近づき、す、と障子の裏に影が現われる。
「貴殿のなされようは目に余る」
「な、何者!?」
久しく握ったことすらなかった刀に手をかけ、障子の向こうをうかがう。
「何もなさらない方がよろしいですよ。私は……貴殿が中山とご懇意になされていたことを知っているのですから」
「ひ、平賀か? 丁度良い。今からお主のところへ使いを参らせようと思っておったのだ」
精一杯媚びた声音を作り、喉元へ突きつけられた刃に抵抗する。この男が何かを喋ればこの身は破滅しかねない。
「そうですか。ですがそうなさらない方がよろしいでしょう」
「常ならば町奉行でお主の出世も終わりだ。だが、わしならば……」
「結構です。そのような栄達はいり申さぬ」
ぴしゃりと出された一声は、絶対の拒絶を意味していた。
「私はこの江戸を脅かすものを許しませぬ。江戸を脅かせば人が死ぬる。あなたひとりの命と町人ひとりの命。私にとってはまったく同じものだ。それは断じて許しませぬ」
江戸町奉行の鑑ともいうべき正論を、まったくの躊躇なしに投げつけてくる。
「ご隠居なされい。さすれば貴殿と中山の関係、私の胸の内に治めましょう」
「ぐ、ウ……」
少しの沈黙の後、老中某は膝を折った。
「おわかり頂けて嬉しい限り。私はあなたの死も望んでおりませぬ。腹を切るとか切らぬとか、そのような面倒事も御免被る」
彼にとって、すべての命は等価なのだ。それがたとえ欲得に塗れたこのような男のものでも。
「それでは、次にお会いする時は憑きものが落ちていると良いですな」
それきり、音もなく影は消えていった。
権勢を振るっていた老中の某が病を理由に隠居を申し出て、政の表舞台から姿を消したのはそれから数日後のことである。