2026年01月06日 [長年日記]
§ [Ludus] S級勇者の俺様がパーティを追放されたのだが
「すまないがラーン、君をうちのパーティにこれ以上置いておくわけにはいかない」
言われたブレストプレートの男が眉をピクリと上げる。茶の髪をざんばらにした、いかにも戦士然とした偉丈夫である。
「あぁ、どうしてだよ? キール。俺たち同じ村から出てきた親友同士だろう?」
その応えを聞いて言い出した男、こちらは魔法使いギルドの証であるつば広の帽子を被った優男が、神妙な顔つきになる。
「確かに僕らは同じ村から出て、夢だった冒険者になった。中でも君の実力は抜きん出ていた。百人にひとりいるかいないかの勇者クラスの適性を持ち、剣も魔法もメキメキ上達して、僕らのパーティをこの国のSランクパーティ認定の最速記録まで持って行ってくれた。ただの鋼の剣で魔導強化されたアイアンゴーレムを倒し、その性格も俺様系だが実力に見合っているし、女子どもにも優しい」
少し聞いてみればキールはラーンを持ち上げる言葉を次々と紡ぐ。
「それじゃあ、なんで……」
「アンタのギャン中のせいよ!」
煤けた色の外套を羽織り、真紅の髪を後ろ頭でまとめた少女の面影が残る女が怒鳴ると、酒場の連中がちらりとそちらを伺う。
「もう、カビかけたパンを恵んでもらって、聖堂のすみで寝泊まりする生活は嫌なの」
こちらは金髪を肩のあたりまで伸ばした、控えめな女だ。疑問の顔を続けるラーンに、パーティの女性陣が次々とその“理由”を投げつけていく。
「ミネット、ホーリィ。それはだな……。そう、男にはやらねばならない時があるんだ!」
真剣な面持ちでバン、と机を叩くラーン。
「それはパーティ資金にまで手を付けていい理由にはならないよ」
キールが冷静さを崩さずに言う。
「あたしなんてギルドからあの“好色伯”の“相手”をする引き合いまで来たのよ!」
ミネットは顔を紅潮させて激昂する。
「これ、全部あなたの借金の証文よ……」
悲しい顔でホーリィが紙束を卓の上に置くと、エールのジョッキと同じくらいの高さになる。
「競馬、ドッグレース、カジノに盗賊ギルドの賭場、それにもっと危ないところでもやってるだろう? 趣味でやる分にはいいが、ここまでだとさすがに僕たちも我慢の限界だ」
どちらかといえばラーンを擁護するような言い分だったキールが、強い口調になる。
「ああ、もうわかったよ。ようは俺をこのパーティから追放するってことだろ!」
「そうね。あたしたちはB級パーティからでも地道にやり直すわ」
言われると、ラーンはさまざまな金属が組み合わされ複雑な文様になっているドワーフ造りの剣と、ブレストプレートを脱いで床に放り出すと、証文の束を掴んで立ち上がる。
「んじゃまあ、俺たちはここまでだ。お前ら“一般人”たちの活躍を上の方から見ててやらあ。俺の装備は売って資金にでもしてくれや」
「あの、それじゃあ身ひとつで?」
流石に心配になったのか、ホーリィが戸惑った様子を見せると、ミネットがそれを片腕を出して制する。
「いいのよ、あいつはそこら辺の木の棒があれば、ベビードラゴンくらい楽勝なんだから」
「ま、そういうこった。あばよ!」
身の回りの品を入れたずだ袋を片手に背負い、もう片手で手を上げると、振り返らずにラーンは酒場から出て行く。
暖炉で暖かな酒場の外は、晩秋の寒い風が吹いている。ラーンは生まれて初めての孤独に少しの間感傷を覚えていたが、すぐに歩き出す。
行く当てはない。ただ、歩き出しただけだ。
すると、夜風が彼の足元に紙切れを吹き付けてくる。
それを近くの民家の灯りを頼りに読むと、ラーンはにんまりと笑う。
「『アラポト山脈を支配する魔竜、メタロニスの討伐。報償は金貨十万枚』……どうやら俺様の運はまだ尽きちゃいないらしいな。ありがとよ、運命の女神ル・フォイ! これで借金をチャラにできそうだぜ!」
というわけで、なんとなーく頭に浮かんだので主人公が一方的に悪いパーティ追放物の序章だけ書いてみたですぅ。この後は勝ったぜガハハーとスッたぜトホホーを繰り返すものになると思うけど、もちろん続かないですぅ。