2025年11月08日 [長年日記]
§ [CoC] シナリオ:怪物物件
今回も新クトゥルフ神話TRPGの小シナリオですぅ。クラシック版でもプレイ可能ですぅ。
このシナリオを使ったリプレイの公開やプレイ配信などは好きに行なっていただいて構わないですぅ。その時はご一報いただけると嬉しいですぅ。
キーパー向け情報
某地方都市にある築50年以上の古いアパート、戸村コーポ二号館。そこは世界の裏側で生きる闇の者たちに家を斡旋するブローカーが便利に使っていた物件でもある。
アパートの所有者である戸村不動産は、このおんぼろアパートを再開発することにしたが、幾人かの入居者と連絡が取れなくなってしまっている。戸村不動産は
しかし、そこに住んでいるのは旧支配者の従者や食屍鬼、魔術師たち。一筋縄ではいかない住民たちを戸別訪問し、移転の交渉をまとめたり“いない”ことを確かめたりしていけばシナリオは終了である。
NPC紹介
リチャード・アプトン:30歳?、戸村コーポ二号館の105号室住人。本名はリチャード・アプトン・ピックマン。H・P・ラヴクラフトの小説『ピックマンのモデル』で語られた画家で、食屍鬼。たまに創作意欲を満たすために地球を訪れる癖があり、画家として活動している。人間に対しては危害を加えられない限り理性的な対応をする。
シナリオの導入
探索者たちは戸村不動産に呼ばれ、戸村重樹から話をされる。彼は「うちの物件に立て替えを予定している戸村コーポ二号館というのがあるんだが、3部屋の住人と連絡が取れないんだ。会社とはいえ夫婦経営なので手が回らないので、取り壊しと退去のことを言いに行ってくれないか」と話す。探索者たちが了承するなら住人に書いたメモと鍵束を渡し「暴力団の立ち退き屋みたいなことはしないでくれ。あくまで穏便に、悪くても住人がいて連絡がつくことが確認できればそれでいい」と彼は念押しをする。
1.戸村コーポ二号館
戸村コーポ二号館は住宅地の外れにある、木造2階建てで外側に各部屋を繋ぐコンクリートの通路があり、錆まみれの階段で2階へ上るようになっていて、これまた錆塗れの鉄製の通路で各部屋が繋がれている。1階2階共に5部屋ある、もう築50何年の物件だ。
建物の近くにはマンションが何棟か建っており、その狭間にあるせいか余計古々しく、薄暗さを感じる。
連絡が取れない部屋は102号室、105号室、202号室、203号室の4つである。
メモを見るなら、102号室は
探索者たちは好きな順番で部屋を回ることができる。
2.102号室
小野佐弥子の部屋である。ところどころが錆びた金属のドアに“小野”と書かれたネームプレートがあり、ポストの部分には電気、ガス、水道などの請求書が数ヶ月分挟まっている。
外に回ってみるなら、カーテンは開け放されたままで、家具は少ないがよく整理された部屋と、敷かれたままの布団が見える。
リチャードに話を聞けるなら、深夜にゴミ出しをする姿などを何度か見たが、小柄な老女だったと話す。
中に入るなら、入ってすぐのところに台所兼用の4畳半ほどのスペースがあり、風呂場へのドアと、奥の部屋への襖がある。以下、このアパートはすべてこの作りである。
襖は開け放たれており、その奥は6畳ほどの畳部屋で、押し入れがある。家具はホームセンターで買えるようなカラーボックスや棚がいくつかあり、綺麗にまとめられている。窓際には布団が敷かれており、その布団には緑色のカビのような、染みのようなものが人型についている。この染みを見て〈アイデア〉ロールに成功すると、ここに何かが“いた”ことに確信を持ち、0/1D3の正気度ポイントを喪失する。
〈クトゥルフ神話〉に成功すれば、グラーキの従者というゾンビのような怪物は、日の光に当たり続けると緑色に変色しながら死んでいくことを思い出せる。
キーパー用情報
この部屋に住んでいた小野佐弥子は生まれてかなり時間の経っていたグラーキの従者である。彼女は202号室の住人で魔道士の蓮台寺明久によって創造され、従僕として使われていた。しかし数ヶ月前のある日、彼女はカーテンを閉め忘れたまま寝て、太陽光線にさらされて消滅してしまったのだ。これが彼女が呪われた不死を厭うてのことかどうか、知る者はもはやいない。
3.105号室
リチャード・アプトンの部屋である。ところどころ錆びたドアにはネームプレートも何もなく、まるで空き部屋のようにそっけない。
外から様子をうかがっても、窓には遮光カーテンがかかっていて中の様子を見ることはできない。
呼び鈴を鳴らしても住人は出てこないが、電気メーターを見ればそれが回転しているので電気が使われていることがわかる。これはプレイヤーが提案しなくとも、〈アイデア〉ロールに成功すれば気づくことができる。
〈聞き耳〉に成功しても、中でゴソゴソと人間大の存在が動いていることがわかる。
中に入ると、シンナーのような臭いがする。〈絵画〉に成功すればこれは油絵で使われるテレピン油の臭いであることがわかる。
台所に繋がる襖は開け放たれており、続きになって使われている部屋の数ヶ所にはイーゼルと書きかけのカンバスがあり、壁にもいくつかのカンバスが立てかけられている。それらはすべて人が人を喰う、カニバリズムがモチーフとなった冒涜的なものだ。ハードの〈絵画〉に成功したなら、1920年代のアメリカに、カニバリズムの絵ばかりを描いたリチャード・アプトン・ピックマンという画家がいたこと、彼は謎の失踪を遂げたことを思い出せる。
部屋の主であるリチャードは部屋に入ってきた探索者たちには背中を向ける形で、猫背になって一心不乱にカンバスに絵筆を走らせている。探索者たちが部屋で動き回っていると「It's noisy」と早口で言いつつ振り向く。そこにいるのは顔に犬のような口吻を持ち、鋭いかぎ爪を持つ怪物のような男だ。その体からは凄まじい悪臭がする。彼は食屍鬼だ。その姿を見た探索者たちは、0/1D6の正気度ポイントを失う。
突然の来客に気づいた彼は慌てて顔の下半分を覆う医療用のマスクをつけて、「失礼。勝手に入られると困るのですが」と早口で、しかし流暢な日本語で話す。探索者たちが建物の取り壊しと退去の件を話すなら、「見ての通りここには電話も無いし、スマホも持っていない。仕事に集中していると呼び鈴も聞こえなくなるたちでね。感謝する。できるだけ安く住める新しい物件を手配して欲しいと社長に伝えてくれ」と、いたって友好的に応答する。
探索者たちが彼の外見や素性来歴について追及するなら、ハードの〈威圧〉〈言いくるめ〉〈説得〉〈魅惑〉に成功したなら、「私を見ての通りここは古いしその筋のブローカーが異形の者、外法の者が、かりそめの宿として都合よく使う建物なのだ。残りの連中もおおかた同類だろう」と事情を説明する。イクストリームで成功している場合、「他の連中の説得に不安があるなら私も同行しよう」と探索者たちが求めれば彼も同行することに承諾する。結果がレギュラー以下だった場合、「私は人体改造フェチなのだ。風呂も入らん」などと話をはぐらかされるのみである。
探索者たちが彼を攻撃するようなことがあった場合、建物の外へ逃げて路地裏や下水道に入って撒こうとする。
キーパー用情報
リチャードはラヴクラフトの小説『ピックマンのモデル』で失踪したリチャード・アプトン・ピックマンその人である。彼はドリームランドからたまに外界へ出て、創作活動を行なっている。いくつかの偽名で画商に絵を売っているので金銭的には不自由の無い生活をしているが、身分を偽装するのにも金がかかり、もとより人嫌いのため目立たない場末に住むのを好んでいる。
4.202号室
蓮台寺明久の部屋である。錆のかかったドアには“蓮台寺明久”と書かれた名刺がガムテープで貼ってある。
外に回ってみるなら、カーテンが閉められているため中の様子はうかがえないし、呼び鈴を鳴らしても人は出てこない。
リチャードに話を聞けるなら、蓮台寺は探偵を自称していたと話す。
鍵を開けて入ろうにも、ドアの鍵と合わない。鍵穴の部分だけ新しいので、勝手に変えられているとわかる。〈鍵開け〉に成功すれば開けることができるし、体当たりを試みる者のSTRが合計80なら、ドアを壊して中に踏み込むことができる。
部屋に入ると、台所には食べ終わったインスタント食品やコンビニ弁当を入れたゴミ袋にハエがたかり、畳部屋の方にも布団が敷かれ乱れたままの金属パイプ製ベッドやキャビネット、事務用の小型デスクなどがそのまま放置されている生活痕がある。しかし、部屋の中には誰もおらず、夜逃げでもしたかのようだ。
デスクの上には赤と青の大学ノートが2冊ある。赤のノートは彼の日誌で、小野佐弥子を先に入居させて安全を確認できたので自分も入居したこと、小野が消えてしまったこと、“トゲ”という何かをふたたび手に入れたこと、隣の夫婦の仲が悪くケンカの怒号で研究に身が入らないこと、衝動的に“トゲ”を隣の夫婦に使ってしまったことが書かれている。
青のノートには英語と日本語が併記される形で理解しがたい内容が書かれている。流し読むとグラーキなる存在を崇拝する宗教団体の書いた聖典の逐語訳だとだけわかる。
キャビネットの中には超常現象のことを扱った本や雑誌が数冊入っているが、まだ色々なものが入っていた痕跡がある。
これ以上探索しても何もない。どうやら蓮台寺という人物は失踪しているようだ。
蓮台寺明久のノート
英語と日本語の併記、蓮台寺明久著、2020年頃
グラーキの黙示録の断片から作られたカルトの聖典を、さらに蓮台寺明久が訳したもの。カルトは現代に興ったもののため、本来のグラーキの黙示録から失われたものはあまりにも多い。
正気度喪失:1D6
〈クトゥルフ神話〉:+2%/+4%
神話レーティング:5
研究期間:2週間
呪文:《神格との接触/グラーキ》
キーパー用情報
探偵を名乗っていた蓮台寺明久は、その実現代に生きる魔術師だったようだ。彼はグラーキの黙示録の断片を見つけて独自に翻訳してグラーキのとげを入手し、それを衝動的に隣の夫婦に使い、露見を恐れて夜逃げした……というのが大体の物語であろう。いずれにせよ、蓮台寺の物語は別のシナリオで語られるかもしれないが、今回の彼の役割は夜逃げした怪しい探偵である。
5.203号室
田中宏と田中正子の夫婦の部屋である。ところどころが錆びたドアにあるネームプレートには“田中”と書かれている。ポストには電気代やガス代の請求書が3ヶ月分挟まれている。
外に回ってみるなら、薄いカーテンの向こうにふたつの人影が動いているのがわかる。どうやら、夫婦は在宅中のようだ。〈アイデア〉ロールに成功すれば、その動きには何かをやろうとする目的のような生気がないことがわかる。
リチャードに話を聞けるなら、夫婦仲が険悪だったようでたびたび怒号が飛び交っていて迷惑していたが、数ヶ月前にぱったりと止んだと話す。
部屋に入ると、台所部分は夫婦喧嘩の名残なのか割れたままの食器がいくつか放置されたままになっている。奥の部屋に続く襖は閉じられたままだ。
襖を開けると、使い古された家具がある部屋の中を体のあちこちに青黒い跡を持ち、肌がしなびた普段着の男と女がぎくしゃく動き回っている。この異形の人体を見た探索者たちは1/1D8ポイントの正気度を失う。彼らは探索者たちを見るとぐるりとそちら側を向き、「ニンゲン……キョウミブカイ……」、「……フトドキモノ……オワセル……」などとつぶやきながら襲いかかってくる。
彼らは蓮台寺明久によってグラーキのとげに刺され、グラーキの従者と化した田中夫婦である。彼らはグラーキとの交信により蓮台寺を追う目的を与えられてはいるものの、手段がわからないためにただ部屋の中をうろついていたのである。しかし、探索者たちが部屋に入ってきたことで事情は変わる。グラーキは探索者たちが有用な従者たりうる存在と認識し、この使えない夫婦で捕獲しようとしているのだ。
キャラクターたちが田中夫妻を倒すと、彼らはぐずぐずと緑色のカビや染みのように畳に沈んでいく。そしてどこかからゴボゴボと水が泡を立てるような『見タゾ』と“人の声のような音”が聞こえてくる。この“音”を聞いた探索者たちは1/1D6の正気度ポイントを失う。
キーパー用情報
田中夫妻は闇の世界の連中とは関係なく、家賃の安いこの物件に入居した哀れな犠牲者である。彼らは夫婦仲が悪くて外にまで声が響くような夫婦喧嘩をしていたため、隣の部屋の蓮台寺明久からグラーキのとげを刺され、グラーキの従者へと変成させられたのだ。それ以後はグラーキと感覚を共有する操り人形となっていたが、グラーキはこの夫婦をあまり使えない存在と思っているのか半ば放置していた。
結末
探索者たちがすべての部屋を回り終えて問題を解決すれば、ほとんどの部屋の借主は失踪ということになり、しばらくは警察が捜査をするが、やがてそれも忘れられ、しばらくすれば再開発が始まるだろう。
リチャードが無事なら彼はまた別の建物に引っ越すことになる。
本作は、「株式会社アークライト」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』シリーズの二次創作物です。
Call of Cthulhu is copyright ©1981, 2015, 2019 by Chaosium Inc. ;all rights reserved. Arranged by Arclight Inc. Call of Cthulhu is a registered trademark of Chaosium Inc. PUBLISHED BY KADOKAWA CORPORATION 「クトゥルフ神話TRPG」「新クトゥルフ神話TRPG」