ネコぶんこ


2013年12月02日 [長年日記]

§ [DnD][4e][LnL] 『デザインの鋭さ――その2(Design Finesse—Part 2)』

マイク・ミアルス

先週、私は全ゲーム・デザイナ究極の目標である美しさと、その目標がどうD&D Nextのデザインに反映されたかを解説した。私たちが美しさを追求するときに使う主な道具は鋭いデザインだ。しかし、美しさはデザインの向こう側、プレイによってしか実現されないことはしっかりと心に留めねばならない。

RPGのセッションが内なる感覚のリズムに従い、苦労せずに行動をルールに適用でき、DM生活をより楽なものにして、そしてテーブルの流れをうまくさばけるなら、美しさは自然にたち現われてくるものだ。それを使えば他のものよりもより困難がなくゲームを端々まで運営できるという意味で、美しいルールは見えないルールだ。美しいルールは常に時と場所をわきまえたところにいる使用人だと考えてみればよい。

私たちが持つデザインの鋭さについての4つの指針のうち、最後のふたつは特にゲームのプレイ中に美しさを創造することに集中している。

ルールの透明性のため局所的に考える

アメリカの政治家で元下院議長のティップ・オニールは「すべての政治は局所的なものだ」との有名な言葉を残した。同じことはRPGのルールにも――少なくとも特定の状況を処理するルールには――適用できる。

D&D Nextの機会攻撃についての記事はこの考えを元に書かれた。君は第3版の機会攻撃に、大変多くの特別な条件と例外があったことを覚えているだろうか。いくつかのアクションは機会攻撃を誘発したりしなかったりする。クリーチャーの機会攻撃範囲に進入しても誘発しないが、そこから離れるかその中で移動するなら誘発する。呪文発動は誘発する。立ち上がるときも誘発する。剣を抜くときは誘発しない。こうした学ぶべきことが多い上に、すべてのプレイヤーはこのルールが戦闘で大きな意味を持つために理解しなければならなかった。遭遇に参加しているほぼすべてのキャラクターやモンスターは毎ラウンド、機会攻撃を誘発するかしないかを特記された何らかの行動を行なう。

第4版で、私たちは機会攻撃をだいぶ整理した。それらは移動か特定種別の攻撃(遠隔あるいは範囲)で第3版のようにトリガーが発生したが、他は何もなかった。そしてD&D Nextで私たちはさらに簡略化を推し進め、機会攻撃は君がクリーチャーの間合いから離れたときのみにトリガーが発生するようになった。

私たちは機会攻撃のルールを全員が知っておく必要があるルールだと理解したからこそ、こうしたのだ。そのために、私たちはこのルールを可能な限り単純にする必要があった。近接の間合いから離脱するとき、君は攻撃される危険を冒す。このペナルティは何十年もD&Dの一部に存在し、それはゲームで紡がれる物語の中で意味を持っていた。

その一方で、私たちは呪文使いがこれまで近接戦闘に参加したがらなかったのも知っていた。これはルールの局所性を保持する原則を適用すべきところだ。私たちは呪文使いのことを機会攻撃の考慮に入れるよりは、精神集中の概念を導入することにした。最終的なルールで、攻撃は君の精神集中を乱して呪文を終了させる原因になった。こうした精神集中呪文を使う術者は、できるだけ近接戦闘を避けて隠れたくなる。

ファイターやローグはこのルールを覚える必要はないし、精神集中呪文を決して覚えないパラディンやバードもそうだ。これは強化呪文や長時間効果がある呪文を使いたい人だけがプレイに導入すればよい。このルールを学んで理解しているプレイヤーは、精神集中呪文を使っている悪のクレリックと戦うときに、そのクレリックと戦うための戦術的な決定ができるという点で報われる。しかし、君はゲームをプレイする上でこのルールを知っておく必要はない。

さらなるボーナスとして、君は一度にひとつの精神集中呪文しか扱うことができない。これも呪文の重ねがけをすっきりして、強すぎる強化を抑制する。これはゲームのプレイをよくするのに多くの貢献をした小さなルールだ。

流れのままに

鋭いデザイン最後の原則は、ルールの知識がなくてもゲームがどう動いたかでプレイヤーに納得させられるルールを作成していく考えと結びついている。私たちが世界を理解してそれをゲームに適用することで、しばしばルールを介さないものでも選択として認められるのはRPGの強みである。この側面はRPG独特の没入性――プレイヤーをゲームの世界へと引き込み、生き生きとさせる能力――を生じさせる助けになる。

完全にルールを遵守する種類のゲーム、たとえば戦略ボードゲームである『ウォーターディープの支配者たち』を例に取ってみよう。このゲームをプレイするとき、私はこのラウンドで遂行中のクエストがある上位のロドニーを攻撃すべきだと理解しており、彼は遂行中のクエストを抱えているのでこれ以上のクエストを終わらせることができない。ルールを理解するだけで、私はいつ、そしてなぜそれを行なうべきかを理解できる。

D&Dでは対照的に、DMは私のローグに向かって矢を射掛けんとするホブゴブリンの弓兵団を描写するかもしれない。DMが近くに石柱があると言えば、私はその後ろに飛び込んで隠れると決断することができる。D&Dで私たちは隠蔽を得ているなら君のACにボーナスを与える。それは理にかない、筋の通ったルールだとみんなが納得できる。だが、柱の陰へ飛び込もうと決めたときに私は隠避のルールを理解しているかもしれないし、していないかもしれい。私はただ単純に世界がどういう仕組みなのかを理解し、それをゲームに適用しているのだ。柱の陰に隠れたいい男のほうが野原にたたずむ田舎者よりも狙うのが難しいというのは、誰の目にも明らかだろう。

こうした思考に沿って、私たちは弓や遠隔武器を近接で使うことの代償について話し合った。旧版では機会攻撃がこのような攻撃への罰になっていたが、私は攻撃される隙が生じることでは実際に近接距離で弓を使おうとするときに起きることを再現できないと思った。その代わり、私は武器の新たな特徴――仮に“長物”としよう――を提案することで、いくつかの武器が至近距離での戦いには向かないことを表現するかもしれない。敵対的なクリーチャーから5フィート以内で長物武器を扱うと、君は不利で苦しむことになる。ロングボウ、スリング、そしてロングスピアは長物に分類され、敵がすぐそばまで寄ってきたらこれらを利用するのが困難だという考えにさせるかもしれない。

機会攻撃のルールを適用して全員にもうひとつ例外を学ばせるよりは、長物のルールで攻撃役に紐をつけてさらにそれを武器の副種別にも連結させる。オークに包囲されているときに武器を使おうとしているキャラクターを想起することで、プレイヤーははっきりと実感し、なぜこの代償なのかを納得することができる。ルールがなくとも、多くのプレイヤーはロングスピアやボウを格闘戦で使うべきではないと直感する。このように、プレイヤーが現実世界で感じることを筋の通ったと感じられる代償としてプレイへと落とし込むのだ。

マイク・ミアルス

マイク・ミアルスはD&Dのリサーチ&デザイン・チームのシニア・マネージャだ。彼はレイヴンロフトのボードゲームやD&D RPGのサプリメント何冊かを手がけている。