ネコぶんこ


2014年09月08日 [長年日記]

§ [TRR][Oni] リプレイ『鬼の話~ミドルフェイズ:シーン7』

ミドルフェイズ:シーン7・英傑集結(貞親)

「お前さん……どうもただの遊び人ってわけじゃあなさそうだ。英傑の相がありなさる」

「へえ……鼻でかぎわけられるもんかい? 実際に臭いが違うもんなのかね?」

湿っぽく饐えた臭いのする裏路地で貞親と歩きながら銀次郎が鼻を鳴らしていると、突然その脇にこんな場所には似つかわしくない少女、三日月が歩み出てきた。

「あんたの言うとおり、その人はただの遊び人じゃないよ。下手に手を出すと…痛い目見るわよ、三度笠の兄さん」

これまで後ろを取られることのなかった銀次郎は狼狽する。 「姐さん、あんたらどっから出てきなすった!?」

見れば、彼女の半歩後にはさらに狒々のような巨漢。十五郎だ。何者であるか知っている貞親の姿を認め、声も出ていない。

「はは、三日月サンに十五郎くんも一緒かい。これは事が荒立つね」

そう言いながら“蘭学奉行”は、黙っているように視線で十五郎を制した。同じく彼の正体を知る三日月は、その様子を察して話を進める。

「ちょいと噂を集めようと思って、こんな所に踏み込んだんだけど。ここで旦那と出会うなんてねぇ…って、旦那、この狒々男と知り合い?」

何やら知った仲のような三人。彼らを観察すると、銀次郎は驚愕で目を見開いた。

「こいつは驚いた。あんたたちからも英傑の相が匂いなさる。これも天命……いや、宿星の思し召しか?」

十五郎はただならぬ気配を感じてその声に身構えるが、奉行が制しながら言葉を紡ぐ。

貞親:「ここまでくれば鼻の鈍い私でもわかる。こりゃ、何かあるね。それぞれが思っていた以上の何かが」

銀次郎:「どうやら追ってるヤマは同じってこってすかい?」

十五郎:(おかしい、ここは江戸の町中だ。いるのは無宿人に役人に、謎の女。なのに、山んなかで子持ちの熊に出くわした時みたいな、“氣”を感じる)

三日月:「ふうん、あんた、鼻が利くんだねぇ……ということはこの狒々男も……(ま、妖異でなきゃ英傑ってことか。いろいろ規格外な奴とは思ってたけども)」

貞親:「さっきの話は聞かせてもらったから、大体わかっている。まったくその通りで、いやあ、手元にない情報まで巷に溢れてるとは参った参った」

銀次郎「よければあっしもそっちのお仲間に加えてもらえませんかね。多少はお役に立てると思いますぜ?」

貞親:「いやあ……私もそれを頼まなければならない立場なんだが、どうかね? 三日月サン」上取ってるのは三日月だよなと勝手に見抜きます。

三日月:「…とりあえず、あっちが決着つけてからだねぇ」

貞親:「はは、十五郎くんは気が早いねえ」目を細めて見てます。

「……お前、人か?」

銀次郎に水を向けられた十五郎は、刀に手をかけたまま静かに訊ねる。

「おっと、それ以上はおよしなせぇ。大丈夫、取って食やぁしませんよ」

牙を剥いてにいと笑う銀次郎。

「前に、山んなかで似た気配に囲まれたことがある」

その笑みに、十五郎はかつて山の中で出遭った獣を想起した。

「そんな気配を持った奴が、なんで人里にいる」

間合いを詰めることも外すこともできないまま、対峙は続く。

「ちょいとこいつは、退屈しのぎってだけじゃ……」

「あんたもあっしらの方に近いお人だとお見受けしましたがね? どちらにせよ剣呑な気を送るのはよしにしましょうや」

対する銀次郎は鼻を鳴らしながら、努めて友好的に振舞う。彼が敵でないことを本能的に直感しているからこそできることだ。

「人だろうとそうでなかろうと、あっしらは手を組むことはできますよ。それこそ鬼とでもね」

重五郎:「馬鹿言え、御伽草子じゃあるまいし。怖いのは人や獣で十分だ」気を緩めます。

貞親:「いや何、簡単なことだよ。ちょっとばかりみんな人の尺度が違うだけさ……さ、もめててもしょうがない。落ち着いて話し合おうじゃないか」

銀次郎:三日月の方をちょっと見て肩をすくめます。あなたの正体には気づいてないの? という感じで。

三日月:「さぁ? と首をすくめて返します。

十五郎:だって、綺麗な女の人なんで気にしてないんですよ!

貞親:「……そうだねえ、そこにちょっといい小料理屋があるんだけどさ」とか言いつつ、勝手に歩き出してる。「……ほら、行こうよ。ずっと立ってると足痛くなってさあ。年かねえ?」