2014年10月18日 [長年日記]
§ [TRR][Oni] リプレイ『鬼の話~クライマックスフェイズ:シーン13(戦闘前)』
クライマックスフェイズ:シーン13(戦闘前)・颯爽登場(銀次郎)
屋形船の中には欲得にまみれた本性を現した二挺拳銃の中山。船尾には蛇腹にのたうつ太刀をぞろりと構えた金剛童子。
張り詰めた二対二の対峙を破ったのは、水音であった。 においと気配を消すため水中で様子を窺っていた銀次郎は狩りの好機を感じ、船端へ跳ぶ。
「やっぱり隠れていやがったか。八刃破り」
金剛童子は半身と片目で銀次郎を見やると、ぞろり、と蛇腹の剣を這わせた。
狼と変じたその身の銀毛は総毛立ち、口からはもうもうと怒気含みの湯気が立ち昇る。
「渡辺の仇、討たせてもらうぜ拝み屋……いや、金剛童子!」
片や鬼面に甲殻質の鎧を纏った男、片や人の言葉を紡ぐ口を持つ狼。いずれ負けず劣らぬ異貌異相である。
そのやり取りを呆然と見つつ、十五郎は刀を握った。もはや迷いは何ひとつなかった。彼にとっていかなる難事も所詮は刀で斬れるか、斬れないかそのふたつのみ。
そして、妖異は刀で斬りうる難事と知れた。ならば、身に覚えた業が結末をもたらす。それだけのことなのだ。
異形とは外面だけではない。
「師匠、この身に刻んだ天獄流、妖異の肉身に通じるか、試してご覧に入れましょう」
妖異は切れる。そう直観し、体を動かした十五郎もまた、江戸の夜を駆ける異形にふさわしい者だった。
次々と登場する英傑を前に、しかし金剛童子は余裕綽々の様子だった。
金剛童子/GM:「鬼神衆や妖怪ってェやつらはつくづく便利だよ。何しろお上からすれば“いない”奴らだからなァ」
三日月:「そうねぇ。だから、ココで居ないはずの化け物が天狗様達に斬られても、罪には問われない。ですよね、平賀の旦那」《天狗変》して上空から登場。
空から羽が舞い落ち、艶な女天狗が船に降り立つ。
「何を言い出すかと思えば! 皆さんは“いない”者がどちらか解っていないようだ」
全員揃った英傑から得物を向けられていることに気づいた中山は、引きつったように甲高い笑いを上げ始めた。
中山/GM:「これからはこれと」そう言って銃をちらつかせる。「金がものを言う時代なのですよ。やっとうや仁義がものを言う時代などとうに終わっています」
GM:ここで中山が《一件落着》を効果を宣言します。この戦闘中、役人が毎ラウンド増援にかけつけます。これを阻むには《一件落着》による相殺が必要となります。
貞親:「中山殿、貴方は蘭学の基礎がわかっていない。蘭学の根本は観察だ。状況は行為者が決めるんじゃない、結果に表れるんだ。そのことによってのみ『う゛ぃてんすかっぷ』は正しい回答を得られる」
中山/GM:「減らず口を! ならば私が“正しい”観察者となればよいだけ」
三日月:「中山! 金がモノを言う“時代”だと! 貴様のような小悪党風情が“時代”を語るな!」天狗様の怒りと共ににわかに空がかき曇ると、黄龍の姿が雷とともに。
貞親:「自分で結果を導くのは観察者の為すことではない。その時点で貴方は“正しく”ない。三日月殿の言った通り、お前の語るような“時代”は来ない」雷鳴の中で何故か声が通る。
三日月:《黄龍顕現》し、中山によって集められた火盗の役人が“初めから居なかった”事象に再収束します。
GM:了解。戦闘中の増援は無くなります。そして、PC全員に【宿星:毘沙門組を倒す】を与えます。また、橋の上からはもうひとつの可能性が。
お倫は力一杯、愛しい人が着けていた面を投げていた。
彼の遺志を継いで戦う英傑たちに。
十五郎は軽く手を上げ、それを掴む。
少し優しげな彫りの鬼面には、確かな温もりがあった。
お倫/GM:「あの人の無念、晴らしてください!」
十五郎:「充殿、あんたの無念。俺たちが晴らす!」
金剛童子/GM:「滑稽だねェ。人を護ろうが、人を殺めようが、所詮鬼と蔑まれるだけだというのに」
銀次郎:「抜かせ外道。例えこの身は人にあらねども、渡辺も俺も、心まで鬼畜生と成り果てた覚えはない!」
金剛童子/GM:「どうせ鬼と蔑まれるなら、一番上手い汁を吸える場所に立つのが頭のいいやり方ってえもんですヨ」
十五郎:「蔑まれている、なんて思ってなかったんだよ。あの人達はな。そこが、おまえら外道とはちがうってことだ」
そう言い切った重五郎に向き直りつつ、「所詮鬼は鬼、陽の当たる場所は歩けねェ」憎悪の相も露わに金剛童子は言葉を搾り出した。
「どれだけ取り繕ったところで、英傑も羅刹も外から見れば同じ鬼なんだよ」
柄が震え、船端に巻き散らかされた剣の蛇腹が餌を求める蛇の仔のような音を、立てた。