2015年03月31日 [長年日記]
§ [Liber] 大瀧啓裕『エヴァンゲリオンの夢』
人に薦めた手前紹介するこの本は、『ラヴクラフト全集』のなどで著名な大瀧啓裕さんの『新世紀エヴァンゲリオン』解説本で、劇場版は少し触れられるものの、主としてTV版を扱った内容になっていますぅ。
まえがきにあたるパートが「はじめに――あるいは宣戦布告」とあるように、天使やセフィーロートの図、リリスやリリンというモチーフにすっかりあてられてしまった著者が、持ち前の宗教や神秘学についての知識でエヴァを読み解いてくれようと怪気炎を上げていて、この時点で既に不穏な雰囲気が漂っているのがいい感じですぅ。
本篇の構成は一話づつ、その回であったことをまとめた“梗概”と、それを著者が解題していく“読解”と“補足”で読み解いていくフォーマットで、ある意味エヴァを観続けている著者の思考を追いかけていく構成になっているですぅ。
このように書いたら凡百の謎本のように感じられてしまうかもしれないけど、天使の名前が明かされ、それがマルコム・ゴドウィンの『天使の世界』(奇しくも訳者は著者の大瀧さん自身)からの引き写しだと気づいたあたりから様子はおかしくなるですぅ。そして、ちぐはぐな宗教的モチーフと謎めいた言葉に満ちたエヴァの世界を構築、記述しているのは誰なのだという考察が入り始め、“読解”と“補足”での解説と重なるように著者自身による物語が綴られていくあたりが、これを一冊の本、作品として存立させるくらい面白いものになっているですぅ。
知識を武器に解説をしているつもりが物語に喰われていく著者がその様子を実況のように書き出す酩酊感はクトゥルフ神話にも通じるものがあり、なんともいえない味わいがあるので、少し古いものだけどエヴァを知ってるなら読んで損はない奇書ですぅ。